音楽ノ噺
7
衣装はウサギ耳がついた赤と黒のボーダーのパーカーと、メッシュの黒のアンダー、黒のパンツ(付属品は沢山…)。
そして最後に、左手首に手錠。
……これ、本物?
「よっしゃ、行くぜ!『新生・No Name』の初ライブだ!」
「今日もファンを湧かせるよ!」
「キーリのお披露目だ。」
「頑張るぞ!」
「…終始笑顔。」
それぞれが思いを吐き出し、手を重ねる。
「新生・No Name、行くぞ!」
「「「「オーッ!!」」」」
ステージに現れるメンバーが歓声に包まれる。
名前を叫ぶ声も聞こえた。
そして、漆祈が話しはじめる。
「この前俺たちは、『本物』を手に入れるために、この場を去った。『本物』なんかいやしない、って途中諦めた時期もある。」
空気がシン…、として漆祈の言葉に耳を傾けるファンたち。
「だが、ついに見つけた。手に入る可能性が最も低かった『本物』を。妥協なしで選んだ存在だ。」
その途端ざわめき出した。
漆祈の本質を見抜いているからこそ、『妥協なし』ってことに驚いているんだろう。
オレもびっくりだ。
「紹介しよう。新生・NoNameの新たなヴォーカル、キーリだ。」
呼ばれた瞬間、オレはステージへ向かった。
不安で止まろうとする足を前へ進め、恐怖で震えそうな体を叱咤する。
まだ、否定もされてないのに逃げるな。
進め。
それからだ。
やっとスタートラインだ。
まだ何にも始まっちゃいない!
メンバーが、それぞれの楽器で一曲目の前奏を始める。
ステージの中心、マイクを掴むと息を吸って歌い出す。
頭は真っ白で…、でも、メッセージは伝える。
無我夢中で歌い上げ、気づくとラストの曲も終盤だった。
そして、終わった。
ハァ…と、止めた息を吐き出した瞬間、割れんばかりの歓声に包まれる。
びっくりして、ファンの人達に目を向けると、誰かから始まったアンコールならぬ、キーリコールが始まった。
嬉しくて、感動して、泣きそうになるのを堪えていると、最初に歌った曲の前奏がまた奏でられる。
「みんなー!これからよろしくねっ!じゃあ、いくよっ!」
今度は、ファンと一体になって歌う。
自分だけじゃなく、ファンも歌わせる。
勿論、メンバーも。
そんな楽しい時間はあっという間で、すぐ終わってしまったが、5曲歌い終わった時よりも、充実感でいっぱいだった。
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