音楽ノ噺
6
ライブ当日。
オレはメイクさんにほっとかれていた。
何度も声かけてるにもかかわらず。
そりゃ、こんな平凡じゃマネージャーと間違われるか…。
基礎化粧はしたんだけどな。
「キーリ?もうすぐなんだが。」
「あ、えっと…すみません。」
「何で謝る。仕方ない…俺がやるからこっち来い。」
腕を引っ張られ、ドレッサーの前に座らせられる。
「あ、あら、漆祈さん?彼は…」
「メイク道具借りるぞ。」
「え?」
美人なメイクさんの物らしいコスメを使って、化粧を施されていく。
若干、肌が息苦しいのが嫌だが、文句は言えない。
「…ボディペイント入れてもいいか?」
「あ、どうぞ。」
うん、平凡を少しでも引き立てるならもうどうにでもしてく
「ひゃっ!」
「おっと…。くすぐったいか?」
「ごめん。いきなり首にくるとは…」
「弱いのか?」
「まぁ。基本擽りには弱い。」
それで何度、笑い死にそうになったことか。
終わるまで辛抱し、ドレッサーの鏡を見ると、綺麗な蝶が首に描かれた別人がいた。
自分だと気づくまで、10秒を要した。
「漆祈〜、キーリ知らな…って誰ぇぇぇえ!?」
「…キーリです。」
「どうしたの、キ、ル…誰?」
「……キーリです。」
「…クク、やるじゃねぇか漆祈。」
楽だけは、最初からオレに気づいてくれた。
思わず抱き着いてしまう。
「おっと…何だぁ?甘えただなぁ。」
「楽だけだよ、ちゃんと気づいたの〜!」
「そりゃ平凡のへの字もねぇからな。」
「…それはオレも思った。」
ルトもキルも固まっているが、それも仕方ないかもしれない。
オレもオレに10秒くらい気づかなかったし。
「…メイクは、これから俺がやってやる。」
「漆祈が?」
「嫌か?」
「いや!寧ろお願いします!」
「了解。」
それからちょいちょいと、髪の毛をいじられ、メイクは終わった。
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