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幻想ノ噺


〜リクside〜



外へ出ることに多少の怖さはあった。
神として、ここへ入ることを決めたのはオレ自身だった。
それは、単にヒーリィ以外の人に触れられたくなかったから。
自ら、空間の捩じれたここへつながれることを選んだ時、神官の一人は泣いていた。
こんな事になるのなら、いっそ見逃していればよかった、と…。
どういう形でも、彼の願いだけはオレは叶えようがなかった。



「どうした、リク?」

「外出るの、怖い。」

「大丈夫。あの頃とは様変わりした世界だ。」

「そうなのか?」

「記憶とは大違いだ。来いよ。」



一歩、また一歩と洞窟の外へと踏み出していく。
体に纏わりついていた錆びた古い鎖がパキン…パキン…と外れていく感覚がした。




「リク、行こう。」

「…うん!」



最後の一歩を踏み出し、光に包まれたオレは眩しさに目を閉じた。

あぁ、日の光はこんなにも強かったのか。
風はこんなにも優しかったのか。
土はこんなにも暖かかったのか。
そして…



「リク?」

「あぁ、綺麗だ…」



ヒーリィのいる世界はこんなにも鮮やかだったのか。

ぽろぽろと零れ落ちる涙をそのままに、オレは目の前の景色に感動した。
あの頃と変わらない姿のヒーリィは、金髪をなびかせ、深いグリーンの瞳は真っ直ぐだった。
そして、不敵な笑顔ではない、優しい笑顔。
その目が語る、オレへの想いにくすぐったい感じがした。
それでも、色褪せることのない色に嬉しくて仕方なかった。

神殿は、長い年月が経ちすぎて緑に覆われており、かつての栄光の面影はない。
しかし、洞窟前にある祭壇の上には美しい花が供えられていた。
栄光なんて欠片もないが、その光景はひどく優しく思えた。



「お前はまだ信仰されている。」

「え?」

「神官共はいないが、麓の村の人々から信仰されている。少女たちが花を供えるんだ。」

「…そう、なんだ。」

「あぁ。『私たちのために天に還ることをやめた神様が、いつか、この地から解放される時まで寂しくないように。』と…」

「っ!」



空間の捩じれたあの場所では、この世界の音は聞こえない。
それでも、少女たちの声を聞いていた気がする。
温かい陽だまりのような彼女たちを感じていたような…。



「だが、もう必要ないな。俺がいる。」

「うん」

「さぁ、一緒に行こうか?」

「うん!」



世界へ戻ったオレは、ヒーリィの差し出した手を取って歩き出す。



「どこへ行くの?」

「お前となら、どこへでも…」

「っ!じゃ、じゃあ…―――」



オレたちは、生きていく。
今度こそ一緒に。
死が、二人に訪れる時まで。
それまで、オレはまたこの世界を守ろう。
大切な人がいるこの世界を。
そして、眠りに就くときは、あなたの横で…。



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