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幻想ノ噺


だが、幸せは長く続かなかった。

サルの取り巻きだと思っていた神官の一人が、リクの正体に気が付いた。



「別にね、どうだっていいですよ。」

「なん、だと…」

「どちらが神であろうが、関係ない。けれど、あの子からリク様を離している隙に、王弟殿下にとられるとは思っていませんでしたよ。」

「まさか、お前…」

「えぇ。お察しの通り、私はリク様が好きです。」

「っ!」



嘘を吐くことで、リクを世間から遠ざけ、誰にも知られない存在にしようと考えていたのだという。
巧妙に張り巡らされた罠に引っ掛かれば良かったんですが、と笑った神官にぞくりとした。
恐ろしいくらいに策士だ。
もし、俺がいなかったらリクは神官の罠に絡め取られていたのだろう。



「ですが、都合がいい!神であるならば、私がリク様をお預かりするのは当然のこと。殿下、お引き渡し下さい。」

「リクは、俺のものだ!」

「いいえ。万民のものです。そして、神を預かりお世話をするのが私の…神官の務め。神はしかるべきところで崇めなければいけません。」

「断る!」

「…断るも何も、頭の良いあなたならお判りでしょう?神の加護がない土地はやがて死に絶える。この国は、滅亡へと向かってます。あなたの我儘で、国を滅ぼすおつもりで?」



嫌な言い方をする…。
リクを引き渡さなければ、軽蔑する兄と同じ人間になってしまう。
しかし、リクを引き渡せば、もう二度と会うことはできない。



「…オレが、神殿に繋がれれば、国は滅びないんですよね?」

「リクっ!?」

「おやおや、神様自らお出ましとは…ありがたき幸せ。」

「この国が、近いうちに滅びるのは知っています。」



後ろ手に隠していたリクが前へ出て、神官と対峙している。



「滅んでしまったら、ヒーリィも死んでしまう。」

「…リク?」

「…オレは、そんなの嫌だ!」

「では、お決めになられましたか?我が神。」

「まさかっ!?」



リクは、神官の方へ歩いていく。



「リクッ!やめろ!!」

「では、行きましょうか?リク様。」

「うん。」

「リクっ!戻ってこい!!」



神殿の不可侵領域に向かって歩いてくリクを必死に呼び止めた。
そして、領域の一歩手前で振り返ったリクは笑った。



「待ってるから…。ずっと、待ってるから迎えに来て。ヒーリィ…愛してる。」



今にも泣きそうな壊れた笑みは、あまりにも綺麗で悲しかった。
この世界と少し捩じれた空間を繋ぐための鈴の音が心を切り裂くように切なく響いた。

非力だから、リクと最期までいることが叶わなかった。
リクを奪われた俺は、リクの神の力によってもたらされた恵みにより生かされ、天寿を全うしてから死んだ。
早く生まれ変われることを願いながら…。



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あきゅろす。
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