幻想ノ噺
3
〜ヒーリィSide〜
リク、リク、リク…。
あぁ、もう二度と離さない。
抱き返してくる温もりは、あの頃と変わらずに優しい。
悲しい別れから、どんなにお前に焦がれた事か…。
あの頃の俺は、非力で、強者に刃向かう力なんかなかった。
そう、あの頃は…。
――――――――――――――
「リク、またここにいたのか。」
「…うん」
「…城の生活は慣れないか?」
「オレは、あいつみたく順応が早いわけじゃないからね。」
「あぁ…あの煩いサルか。」
リクとの出会いは、王となった兄が行った『神下ろし』の儀式による。
そして、呼び出されたのは1人ではなく2人だった。
一人がリクで、もう一人は例のあいつだ。
兄や、他の側近、神官たちは、リクには見向きもせずにもう一人をちやほやした。
見た目だけは、まぁ可愛い部類だったからだろう。
リクの方が、比べるのも馬鹿らしいほど可愛く愛しいが。
サルを神と崇め奉り、国を挙げて儀式の成功を祝った。
対してリクは、城の奴隷が使う部屋に押し込められていた。
本来、一柱しか下ろすことはできないはずなのに、不吉だということで、軟禁状態にされていたのだ。
煩いのが嫌いな俺は、馬鹿騒ぎする兄を軽蔑している。
というか、兄自身を軽蔑している。
利己的で、愚かで、統治する能力の欠片もないやつだ。
王の器でもないのに、あたかも王の器にふさわしいかのように傲慢不遜に振る舞う。
面倒事が嫌いだからと、王位には就かなかったが、父は俺を王に就けようとしてい
た。
兄は自分の周りを自分の気に入った者たちで固めた。
で、自然と関わるようになったのがリクだ。
リクは物静かだが、知れば知るほどいろんな一面を見せてくれた。
それを、一つ一つ知る度に、愛しさは降り積もっていった。
だから、兄がサルを伴侶とすると決まったときに、リクをくれるように頼んだ。
つか、脅した。
そして、リクに自由を与えた。
でも、リクはいつも同じ場所にしか行かない。
城の中で唯一、神だけが入ることを許される場所。
流石に俺は気づいた。
リクが、本物の神なのだと。
その証に、サルはここの存在すら知らず、また知識を持っていない兄含めるサルの取り巻きたちもここを知らない。
さらに、初めてリクがここへ来た時、リクは巨大な銀色のドラゴンになった。
神本来の姿になったのだ。
思わず平伏しそうになった。
リクは、その空間で全てを悟ったみたいで、慌てることもせずドラゴンの姿のまま暫く佇んでから、ゆらりと輪郭を崩して元の姿に戻った。
もう一つ気づいたのは、リクが許した相手だけは、この空間に一緒になら入れることだ。
現に、俺も入った。
それから、リクは俺の部屋で過ごす以外は、その空間で1日を過ごした。
他愛もない日々だったが、とても愛おしい日々だった。
思いも通じ合い、体を重ねることもあった。
「リク、愛している。」
「うん。オレも、大好きだよ。」
「死が分かつとも、共にいたいものだ。」
しかし、神であるリクとは時の流れ方がだんだん異なっていることに気が付いた。
18歳という歳でありながら、来た時と変わらず成長をしていない。
髪も爪も伸びる速さはひどく遅く、1年に1回しか切らない。
このままでは、おそらく俺の方が先に逝くことになるだろう。
「…できるよ。」
「は?」
「禁忌に触れない程度だけど、共にいることはできる。」
「どうするんだ?」
「オレの鱗を飲んで。」
神のなせる業、とでもいうのだろうか。
死すら超越させてしまうらしい。
リクによれば、鱗を飲むと人としての寿命が尽きた後、記憶はそのままにドラゴンの寿命を持った肉体として生まれ変われるらしい。
ただし、いつ生まれ変われるかはわからないと言った。
それでも、死んで、次に生まれ変わった時に、同じ時間をリクと生きられるなら、と鱗を飲んだ。
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