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幻想ノ噺


オレの前に立った男は、不敵な笑みが良く似合う男だった。
しかし、何故か記憶にある男よりはるかに小さい。
どういうことだろう?



「お前…、人型化できないのか?」

「人型、化?」

「…お前、今の自分の姿を知っているか?」

「え?」

「ハァ…本当に、お前のことを長い間独りきりにさせてしまったんだな。長い長い年を…独りで。自分が何者か忘れるくらい。」

「オレって…」

「お前はドラゴンだよ。…今の姿はな。自分の名前はわかるか?」



名前…名前なんかあっただろうか?
鈴の音と共に聞こえる声は、『神』やら『守り神』と言っていた。



「…わからない。名前なんて、最初からなかったんじゃ?」

「ある。本当に自分の名前を忘れてしまったのか?」

「だって、わからない…。オレが覚えているのは、お前のことくらいだ。」

「っ!」



男が息を飲んだ。



「…お前は、本当に…」



少し震える声で、泣きそうな顔で、男はそれだけいうとオレの顔に近づいてきて、
そっと触れた。

あぁ、この温もりも覚えている。
この体温に包まれて眠った夜もあったっけ。



「…ずっと、ずっと、お前の元へ戻ることを願った。そして、もう一度この腕にお前を閉じ込めて、今度は離れないように…」



オレの冷たい鱗が、体温の温もりを共有して温かくなってきた。



「…焦がれて、焦がれて、仕方がなかった。愛している、」



―――リク。



「り、く?」

「あぁ。…お前の名前だ。リク・サイオンジ。」



名前を認識した瞬間、膨大な記憶が甦ってきた。
オレが、何者か。
男の、ヒーリィとの関係も…。



「あ、あぁ…思い、出した…。全て、思い出したよ。」

「そうか。長い時間かかった。もう一度、会うために生まれ変わるまで…」



ゆるゆるとオレの輪郭が変わっていく。
次第に、ヒーリィの腕の中にすっぽり収まるくらいになった。
これが、本来のオレの人としての大きさ。
いや、元は人だったんだ。



「俺の、名前を憶えているか?」

「うん。」

「呼んでくれ。」

「…ヒーリィ…」

「もう一度」

「ヒーリィ」

「っ!リク…っ」



感極まったように、苦しいくらいぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
久しぶりのヒーリィに、オレも抱きつき返した。



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あきゅろす。
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