幻想ノ噺
2
オレの前に立った男は、不敵な笑みが良く似合う男だった。
しかし、何故か記憶にある男よりはるかに小さい。
どういうことだろう?
「お前…、人型化できないのか?」
「人型、化?」
「…お前、今の自分の姿を知っているか?」
「え?」
「ハァ…本当に、お前のことを長い間独りきりにさせてしまったんだな。長い長い年を…独りで。自分が何者か忘れるくらい。」
「オレって…」
「お前はドラゴンだよ。…今の姿はな。自分の名前はわかるか?」
名前…名前なんかあっただろうか?
鈴の音と共に聞こえる声は、『神』やら『守り神』と言っていた。
「…わからない。名前なんて、最初からなかったんじゃ?」
「ある。本当に自分の名前を忘れてしまったのか?」
「だって、わからない…。オレが覚えているのは、お前のことくらいだ。」
「っ!」
男が息を飲んだ。
「…お前は、本当に…」
少し震える声で、泣きそうな顔で、男はそれだけいうとオレの顔に近づいてきて、
そっと触れた。
あぁ、この温もりも覚えている。
この体温に包まれて眠った夜もあったっけ。
「…ずっと、ずっと、お前の元へ戻ることを願った。そして、もう一度この腕にお前を閉じ込めて、今度は離れないように…」
オレの冷たい鱗が、体温の温もりを共有して温かくなってきた。
「…焦がれて、焦がれて、仕方がなかった。愛している、」
―――リク。
「り、く?」
「あぁ。…お前の名前だ。リク・サイオンジ。」
名前を認識した瞬間、膨大な記憶が甦ってきた。
オレが、何者か。
男の、ヒーリィとの関係も…。
「あ、あぁ…思い、出した…。全て、思い出したよ。」
「そうか。長い時間かかった。もう一度、会うために生まれ変わるまで…」
ゆるゆるとオレの輪郭が変わっていく。
次第に、ヒーリィの腕の中にすっぽり収まるくらいになった。
これが、本来のオレの人としての大きさ。
いや、元は人だったんだ。
「俺の、名前を憶えているか?」
「うん。」
「呼んでくれ。」
「…ヒーリィ…」
「もう一度」
「ヒーリィ」
「っ!リク…っ」
感極まったように、苦しいくらいぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
久しぶりのヒーリィに、オレも抱きつき返した。
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