[携帯モード] [URL送信]

幻想ノ噺


どれくらい前からここにいるかなんてわからない。

寂しい、寒い、帰りたい。
でもどこへ?
わからない、わからない…。

オレがいるのは、薄暗い洞窟らしい。
岩の隙間から降り注ぐ光だけが、昼夜を教えてくれる。
出口はない。

そういえば、オレは昔どんな姿だったっけ?
どういうふうに過ごしてたっけ?
もう思い出せない。
思い出せないくらい長い時が過ぎている。



―――……ン、…ャン、シャン



嗚呼、また鈴の音が聞こえる。
でも、音は悲しい感情しか呼び起さない。

どれくらい昔かもわからない時に、とても悲しいことがあった。
それは、とてもとても…。
覚えているのは、悲しいという感情の記憶だけ。
いや、朧げにだが人も覚えている。
そうだ。
たしか、そいつは男だった。
だんだん思い出してきた。

不敵な笑みが良く似合う男だった。
けれど、優しく微笑むこともあった。
暖かい手で頭を撫でられることが好きだった。

あれ?どうしてその男と出会ったんだっけ?
わからない。

鈴の音が大きくなってくる。
降り注ぐその音に、胸が痛くなる。



『……で…』

「え?」

『…ぃで。…いで。おいで。』

「誰、だ?」

『迎えに来た。』

「え?」



鈴の音と声が重なった時、洞窟が崩れて強い光が差し込んだ。



「っ!?」



人一人が通れるくらいの出口が唐突に作られた。



「おいで。」

「!」

「待たせてしまったが、やっと迎えに来れた。」

「あんた、は…?」

「…覚えてないのか?」

「ごめん。」

「………いや、いい。それだけお前を一人にしてしまったんだな。」



出口に立つ人影が、オレに向かって話しかけた。

何故か懐かしい気がするのはどうしてだろう?
涙が溢れて仕方がないのはどうしてだろう?

行きたいのに足が竦む。

足…人とは違う、オレの、足…。
あれ?オレは人じゃなかったんだっけ?



「…とお、れない…」

「どういうことだ?」

「オレが通るには、狭すぎる…」



そしたら、人影が洞窟の中へ踏み込んできた。



[次へ#]

1/5ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!