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幻想ノ噺
時は過ぎ...

〜ジオside〜



幼かったレイン様は、少年よりは青年の少し手前までに成長された。
私…いや、俺がここに来てから何年たったのだろう?
ここに来た目的は、もうすでに済んでいる。
けれど、レイン様に出会ってしまった。



「どうした、ジオ?」

「あぁ、カイ…。」

「レインは眠ったよ。だんだん『覚醒』が近づいてるみたいで、寝付きにくくなってきたが…。」

「…そうか。なぁ、カイ」

「ん?」

「俺たちはこのままここにいていいんだろうか?」



組んだ足の上に本を置いて、天井を見る。
最近、ずっと考えていることだ。
本来俺たちは、ここに来てはいけなかったもの。
それなのに、レイン様に出会って、居心地がよくなってしまって今もここにいる。
…戻らなければいけないのではないか?



「僕は今のままでいいと思う。『覚醒』してしまったら、レイン様には僕らが必要になるよ。」

「…そうだな。人の生き血を啜る生き物、ヴァンパイア、か。」

「ふっ。僕らがまさか、その虜になってしまうなんて思っていなかったよね。」

「ミイラ取りがミイラになる。まさしくその通りだな。」

「でも、」

「あぁ…。悪くない。」



天井から目を戻し、カイと笑いあう。

カイの深い青の髪が、蝋燭の火で海のように見える。
王子様顔のこいつは、本当にレイン様に甘い。
俺よりも甘いんじゃないか?
サファイアのような澄んだ青の目からは想像もできないことをしてきた同胞でもあるが…。



「そういえば『覚醒』は、いつ頃になりそうだ?」

「今度の満月の晩には…。」

「3日後か。」

「いよいよだね。」

「レイン様のそばにいなければ。」

「うん。」



レイン様は、小さかったからまだ真実を知らない。
だから、俺たちはその真実を知られることが一番怖い。
それでも、レイン様のそばにいたい。
汚い欲であることは自覚済みだが、できるなら愛し合いたい。
それは叶わないと知っているから口には出さない。
レイン様はお優しいから、心に反してでも俺たちの汚い欲の牙の前に自分を差し出してしまうだろう。
そんなことはさせたくないから、ただただ大切に真綿にくるむように守る。
己の本能からだって守ってみせる。



「さぁ、眠ろう。明日も、レイン様に幸せな日を…」

「そうだね。レイン様は、幸せでいなくちゃ。」



蝋燭の火を吹き消して、部屋に星や月の明かりが差し込む。
青い冷たい光に染まった部屋の中、俺たちも眠りについた。

おやすみ、レイン…。
穢れも何も知らないままに。



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あきゅろす。
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