幻想ノ噺 スリーフレーズ 柔らかい…。 暖かい…。 ……あれ?音が聞こえる。 あぁ、この曲はたしかカノンだ。 あの美しい天使が弾く、優しい曲だ。 僕はうっすら目を開けると、知らない天井が目に入った。 そよりと吹く風が頬を撫で、レースのカーテンが遊ぶ。 ゆっくり身体を起こすと、天使が出窓に腰掛け、ハープを弾いているのが見えた。 軽く結わえた金髪。 滑らかな指の動き。 僕は見惚れていた。 「起きたみたいですね。」 「えっ!あ、はい。」 はっとして、返事をしたら声が裏返ってしまった。 天使はクスクス笑うと、僕が寝ていたベッドに近づいてきた。 「私はシェイレン。シェイとでも呼んで下さい。」 「あ、僕は…」 「もう、知ってます。」 ―――類斗。 天使が、シェイがあまりにも愛しそうに、甘く優しい声で呼ぶから、僕は思わず赤くなってしまった。 「フフ…可愛い。私はずっと貴方が生まれるのを待っていました。」 「え?」 「天使は、決まった相手しか伴侶にできません。しかも、その相手が見つからない場合は、誰も愛せずに終わります。又は、あの者のように狂って堕天します。」 「あ…」 そう言われて、カタカタと体が震え出す。 刻まれた残酷な行為。 思い出した途端に、吐き気が込み上げてくる。 「あ…や、だ…あぁ、」 「類斗…」 怖い、怖い、怖い! 「あ゛ぁぁぁぁぁぁあっ!」 「類斗っ!」 ふわりと暖かな温もりに包まれた。 その瞬間、すーっと恐怖が引いていった。 心地、良い…。 温もりの正体は、飛び降りた時と同じシェイの腕の中で、純白の翼が僕を世界から切り離していた。 目に映るのは、シェイの胸板ばかりで、顔にどんどん熱が溜まる。 「すみません。…あれを監督出来なかった私が悪いのです。あれは、」 ―――私の片割れなんです。 衝撃的な真実だった。 あの悪魔が、シェイの兄弟だなんて…。 「あれは、相手を見つけた時にはもう遅かった。…悪魔への供物にされてしまっていた。」 供物になどなるわけないのに、と影を帯びた顔で言う。 狂ったあの悪魔は、自ら堕天して、ただ一人の存在を奪いに行った。 そして、探していた存在によく似た僕を…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |