幻想ノ噺
トリオ
神殿に帰った翠藍は、珊瑚の椅子に座り、ぼーっとブレスレットがなくなり、代わりに王子の指の跡がついた腕を眺めた。
「…どうしよう。」
ぽつりと呟くと、また視界がぼやける。
“悲しかったり、つらかったりしたときは、歌いなさい。”
ふとよみがえる母の声。
翠藍はそれに従って、心に浮かんだ音のまま、言葉のままに歌った。
「綺麗だねぇ。でも悲しそう。悩みでもおありかしら?忌み子の王子様?」
「!」
振り返れば海蛇がいた。
「悩みがあるならついてらっしゃい。追放されし賢者の元へ案内してあげる。」
するりと薄暗い中を鱗を反射させながら泳いでいく。
翠藍は藁をも掴む思いで、ついていった。
周りはどんどん暗くなり、たまに何かの影がうごめく。
びくっとする度に、海蛇はクスクスと笑い、大丈夫だよ、と安心させた。
「にしても、あんたはあたしを見ても怖くないのかい?」
「?綺麗だと思うけど。」
「アハハ!奇特だねぇ。じゃあゴンズイは?」
「可愛い。」
「ウツボ。」
「…見たことない。」
「ふ〜ん。あ、着いたよ。」
「ありがと。」
「なに、歌のお礼さ。また歌っておくれ?」
「うん。」
海蛇と別れ、ぽっかり口を開けた洞窟。
中は黒々としている。
ゴクリと唾を飲み込み、ゆっくり中へ進んで行った。
「誰です?」
「っ!あ、あの…相談がありまして…」
とても綺麗な声が闇の中から聞こえた。
闇が動くと、クラゲが淡い光を放つ。
「わぁ…綺麗。」
クラゲもそうだが、この洞窟の主も想像を絶する綺麗な人魚だった。
闇の色を纏ったその人魚は、顔に大きな傷を持つものの、それすら美しくあった。
ただ瞳のみが、翠藍と同じオッドアイだ。
「おや、忌み子の…同胞。どうしました?」
人魚は翠藍の手を引いて、自分の横に座らせた。
翠藍は、ゆっくり、事細かに話した。
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