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幻想ノ噺
デュエット

夜、翠藍は闇に解ける青黒い髪を揺らめかせ、そっと神殿から海上へと向かった。
今夜は満月らしく、海が深い青に照らされている。



ザバァ!



「うわぁ…広いなぁ…」



翠藍の目に飛び込んだのは、満天の空と大きな真ん丸の月。
思わず手を延ばすと、兄からもらったブレスレットが月明かりにキラキラと輝いた。

しばらく景色にみとれていると、バシャン、と水を打つ音が聞こえた。
かなり遠くからだが、何かが落ちたようだ。
そちらにはオレンジに光る何かもある。
気分の上がっていた翠藍は、ゆっくりとそちらへ向かった。



――――――――――――――



「……ヒト、かな?」



行ってみて、翠藍は驚いた。
人間が溺れていたのだ。
翠藍はただでさえ上手く泳げないのに、大人一人抱えて兄や姉に教えてもらった陸の方へ泳いだ。

人間はとても綺麗な顔立ちをしていた。
顔にへばり付いたブロンドの髪を退けると、パシッと腕を掴まれた。



「ひっ!」

「ん…う……。」



うっすら開かれた瞳は、晴れた海のマリンブルー。
しかし、翠藍はそれどころではない。
人間はニヤリと笑った。



「クク…捕まえた。」

「やっ!離してっ!」



掴まれた所が熱かった。
じりじり焼かれるかのような熱さ。
人魚の体温は人間のそれよりも低い。
だから、そう感じるのだ。



「なぁ、俺に飼われない?大切にしてあげるよ、人魚さん。」

「いやっ!いやっ!熱いっ!」



必死に抵抗したかいあって、手からは逃れられた。
ただ、その瞬間にブレスレットを奪われてしまった。



「あ…。か、返して!」

「返してほしかったら、俺のとこにおいで。毎晩、ここで待ってるから。」



人間はそう言うと、完全に陸に上がってどこかへ行ってしまった。
翠藍は、どうしようもなくなってその場で泣き出した。



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あきゅろす。
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