幻想ノ噺 ソロ 昔か今かわからないそんな時、青く透明な海の底に人魚の都がありました。 人魚の都は絢爛豪華で、色とりどりの海の住人、いや…魚か。とか、人魚が住んでいました。 そんな都で、今日はある王子の誕生日パーティーを催していました。 「今日、王子に海の上へ行くことを許可する。」 「ありがとうございます。」 王子は至って平凡だった。 尾びれと目を除けば…。 「では、お前は退室しなさい。これ以上恥をかかせるな。」 「………はい。」 嫌悪の眼差しで見られた王子は生れつき欠けている尾びれで、泳ぎにくそうにしながら、今日まで閉じ込められていた神殿の塔へ帰っていく。 後ろでひそひそと話す声に、心臓のあたりが痛くなるのを無視した。 王子の目は王族にはない色をしていた。 闇の眷属と同じ濃い紫の右目と金の左目。 忌み子とされる由縁。 しかし、そんな王子には沢山の姉や兄がいた。 神殿に帰ると、一番年上の兄がプレゼントを持ってきた。 「翠藍(スイラン)15歳おめでとう!」 「うん、ありがとう、兄様。」 「ほら、プレゼント。陸の住人が身につけてるブレスレットだよ。」 「うわぁ…キレー…」 派手ではない飾り玉が光を受けてキラキラしている。 「よく似合う。」 「ふふ!ありがと。じゃあ、お礼に歌うね?」 翠藍はそう言うと歌った。 明るく伸びやかで力強いが、繊細で澄んだ歌声。 声が美しいと言われる人魚の中で最も美しい歌声だった。 「……相変わらずだな。」 「僕に出来ることはこれくらいしかないから。」 「そんなことはない。あ、そうだ。お前は海の上に行かないのか?」 「兄様たちの話しを聞いてるだけでいいんだ。タイヨウって暑そうだし…」 「そうか。だが、百聞は一見に如かず。太陽が嫌なら、夜に行けばいい。そこには月がいるから。」 「ツキ?暑くない?」 「暑くない。それに夜なら誰にも見られないでしょ?」 翠藍はパァッと顔を明るくさせると、嬉しそうに頷いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |