狂気ノ噺 7+ 鼻をくすぐるいい匂い。 寝室から出ると、リビングに皿が並べてあった。 「あ、丁度起きましたね。できてますよ、ご飯。」 「わぁ…。すごくいい匂い。」 「あったかいうちに食べてください。」 「うん。」 テーブルに着くと、スープとパン、にサラダ、そしてハンバーグが作られて湯気を立てていた。 パンはあったものだろう。 「いただきま〜す。」 「どうぞ、召し上がれ。」 スープに口をつけている間に、お茶を淹れてくれた。 本当に、どこかの家庭のようだ。 一部食材はおかしいけどさぁ。 「う〜ん、美味しい!」 「そうですか、良かった。」 「ヒロちゃんって、料理得意だったんだ。」 「そうですね。得意、とまではいかないですけど、好きですよ。」 「そうなんだぁ…。」 カチャカチャと食べる音と、時々ヒロちゃんがお茶を飲んで、コップを置く音だけがした。 「ごちそうさまぁ!」 「お粗末さまでした。」 「ホント、美味しかったよぉ!」 「口に合って何よりです。これからも頑張りますね。」 「うん!あ、食器はボクが洗うから、ヒロちゃんも食事してきなよぉ。」 「そうします。じゃあ、また明日。」 「うん。ありがとねぇ。…ヒロちゃん、」 「はい?」 部屋から出ようとしたとこを呼び止めた。 振り返った顔に、自分の顔が弛むのがわかる。 「大好きだよ。」 「…あ、はい。僕もユキのこと好きですよ。」 「ふふ、意味は別だと思うけどね。」 「え?」 「なぁんでもない!おやすみぃ。明日くらいは、死のうとしないでねぇ?」 「?おやすみなさい。」 ニコリ。 笑った顔は、本当に可愛くて… 「あぁ、食べちゃいたい…」 食べちゃいたいくらい大好き。 ボクにとっては、比喩でもなんでもなくね。 それにしても、メニューがハンバーグとは恐れ入るね。 一応、人肉なんだけど容赦ないなぁ。 思う以上に、ここの住人として染まっている気がする。 いつか終わりが来るんだろうけど、その時はボクが最も幸福な時でもあるんだろう。 それまでの間は、抱くなんてことができなくとも、一緒に毎日が送れて、他愛もないことで笑い合えたらそれでいい。 だから、それまでボクの胃を満たしてよ。 ボクの奥さんみたいにねぇ! [*前へ] [戻る] |