狂気ノ噺 5 喉を掻き毟りたくなるほどの欲求におかしくなりそうだ。 「ユキ?」 「っ!」 あぁ、駄目だ。 今、来たら… ―――食ベチャウヨ。 ガタンッ!ダンッ! 「っつぅ…ユキ?」 「…ねぇ、ヒロちゃん」 思いっきり、壁に押し付けたヒロちゃんは、ちょっと痛そうな顔をしていた。 真っ赤な血で染まった手で、ヒロちゃんの喉元をつうっとなぞる。 「ゆ、き…」 「ねぇ、ヒロちゃん。お腹すいたよぉ…。」 ゆっくり顔を近づけて、その唇に噛みつこうと思ったけど、何故かできなくて代わりに肩に顔を埋めた。 「お腹、空いた…。ヒロちゃんが食べたいよぉ…」 「…僕を、食べる?」 「うん。食べたくて、食べたくて仕方がないの…」 埋めたところから香る、美味しそうな匂いに理性を持っていかれそうになる。 それを、必死につなぎとめて、噛みつこうとする自分を寸での所で押しとどめた。 「…食べてもいいんですよ?」 「やだ。」 「ほら…」 人の気も知らないで、ヒロちゃんはボクを抱きしめる。 どうしよう… 「あぁ、でも今食べられると困るんです。」 「………。」 「だから、約束します。」 「え?」 「僕が死んだら、食べてもいいです。」 「…いいの?」 「はい。」 「きもち、悪くない?」 「えぇ。それと、僕を食べるまで死なないでください。」 「…う〜…」 「唸らないでくださいよ。」 「…じゃあ、ボクが死なないように面倒見て?」 「はい?」 「ボクが飢え死にしないように面倒見て?」 顔を上げて、至近距離で見たヒロちゃんの顔を撫でる。 どういうことか、と困惑した目に可笑しくなって笑ってしまった。 ほんと、食べちゃいたいくらい可愛いなぁ…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |