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狂気ノ噺


喉を掻き毟りたくなるほどの欲求におかしくなりそうだ。



「ユキ?」

「っ!」



あぁ、駄目だ。
今、来たら…



―――食ベチャウヨ。



ガタンッ!ダンッ!



「っつぅ…ユキ?」

「…ねぇ、ヒロちゃん」



思いっきり、壁に押し付けたヒロちゃんは、ちょっと痛そうな顔をしていた。
真っ赤な血で染まった手で、ヒロちゃんの喉元をつうっとなぞる。



「ゆ、き…」

「ねぇ、ヒロちゃん。お腹すいたよぉ…。」



ゆっくり顔を近づけて、その唇に噛みつこうと思ったけど、何故かできなくて代わりに肩に顔を埋めた。



「お腹、空いた…。ヒロちゃんが食べたいよぉ…」

「…僕を、食べる?」

「うん。食べたくて、食べたくて仕方がないの…」



埋めたところから香る、美味しそうな匂いに理性を持っていかれそうになる。
それを、必死につなぎとめて、噛みつこうとする自分を寸での所で押しとどめた。



「…食べてもいいんですよ?」

「やだ。」

「ほら…」



人の気も知らないで、ヒロちゃんはボクを抱きしめる。
どうしよう…



「あぁ、でも今食べられると困るんです。」
「………。」

「だから、約束します。」

「え?」

「僕が死んだら、食べてもいいです。」

「…いいの?」

「はい。」

「きもち、悪くない?」

「えぇ。それと、僕を食べるまで死なないでください。」

「…う〜…」

「唸らないでくださいよ。」

「…じゃあ、ボクが死なないように面倒見て?」

「はい?」

「ボクが飢え死にしないように面倒見て?」



顔を上げて、至近距離で見たヒロちゃんの顔を撫でる。
どういうことか、と困惑した目に可笑しくなって笑ってしまった。

ほんと、食べちゃいたいくらい可愛いなぁ…。



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