狂気ノ噺 ・ 1ヶ月後、唐突にその日はやってきた。 オレは礼拝前に、牧師さんに頼まれた買い物を済ませ、教会へ帰った。 いつもなら完全に開いてるか、閉じているかの扉なのに、おかしなことに、扉が中途半端に開かれている。 それを見た瞬間、ぞくりとした。 嫌な予感がする。 恐る恐る中へ入ると、一面真っ赤に染まっていた。 「あ、あぁ…あぁ…」 その中に落ちている黒い羽根。 シトに追いつかれた。 頭の中で、愛しい恋人の声がオレを呼ぶ。 『ニケ、ニケ…。』 「シト…」 甘く優しい声が、オレを呼ぶ。 今でも、涙が出そうなくらい恋人を想い続けてる。 それをシトは知っているだろうか? いや、知っているからこそ、オレを追い掛けてくるんだろう。 敏感に感じとって…。 オレは、教会から走り去り、裏の森に入っていく。 とにかく見つからないように、逃げて隠れなければ! 走り、根に足を取られ、転んだ。 シトが近くにいることはわかってる。 なのに逃げなきゃならないことに、心が絶叫する。 あぁ…、どうして神様は愛し合うことを許してくれない? どうして狂わなければいけない? 「も、やだ…会いたい。会いたいよぉ…」 会いたい、会いたい、会いたい。 「喰われてもいいから…会いたい!」 泉のほとりまでくると、もう目が涙で霞んで見えなくなってしまった。 「シト、シト、しとぉ…。」 『どうしたの?大丈夫、一緒にいるよ。そばにいる。』 嗚咽が止まらない。 いつも包んでくれたあの温もりが欲しいよ。 「しと、し、と…」 もう逃げたくない。 ふわりと風が吹き、影ができると優しく抱き込まれた。 「 み つ け た 。 」 あぁ、捕まった…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |