狂気ノ噺
2
〜魔王Side〜
瀕死の状態で目の前に横たわるエドウィン。
私は、そんな彼に近づき頬に触れる。
彼は、小さい頃から変わっていなかった。
「エド…、」
「ひゅー………ひゅー……」
弱々しく息をする姿はゾクリとするほど美しい。
「エド、辛かっただろう?」
「ルー、ウェンス…?」
「苦しかっただろう?」
「…ルイ、」
あぁ、欲しい…。
幼子の貴方が、少し成長した時に呼びはじめた呼び名だ。
「…殺し、てよ…」
「それはできない。」
「オレ…おか、された…たくさ、の…人に……」
「そうか…。」
私は、エドウィンを抱きしめ自室へ移動する。
「貴方が死にたいというなら、その命、私がもらい受ける。」
エドの返答を待たず、くちづけをし、私の精気と堕落の毒を送り込んだ。
傷は癒え、瞳が虚ろになっていく。
「ずっと、この時を待った…」
そう…ずっと。
エドが欲しくて欲しくて堪らなかった。
きっと手に入らないだろうと諦めていた。
だが、人間たちは私に彼を差し出してきた。
『勇者』として育て上げ、『魔王』と戦うように仕向けた。
だが、『仲間』がエドを、人間のために戦う、という考えから引きはがした。
「ルイ…」
「私の元においで。人間など貴方には必要ない。」
「ルイ、だけがいればいい?」
「そう。私だけが、貴方に必要なもの。また、貴方だけが、私に必要なもの。」
「オレは…必要?」
「えぇ。」
堕落の毒は、甘い束縛。
ぽろりと零れた涙を唇で掬う。
「ルイ…ルイ…」
―――優しく、殺して…。
その言葉に、私は口角をあげてくちづけをした。
「貴方が望むなら…」
その瞬間、欲しかった小鳥は自らの翼を封じ込め、私の元へ降り立った。
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