狂気ノ噺
魔王の小鳥
辛い旅路がやっと終わる。
これでやっと解放される。
そびえ立つ魔王の城を見上げ、足を踏み込む。
ここまで来るのがどんなに苦しかったか。
どんなに悲しかったか。
オレは英雄にはなれない。
英雄にはならない。
魔王とは戦うさ。
だが、死ぬつもりだ。
もう…もう、懲り懲りなんだ。
生きる道筋を選べず、望まぬ戦いを強いられ、裏切られることに疲れた。
魔王の間の扉に辿り着くのは簡単だった。
オレの気持ちを汲み取ったかのように、魔物たちが道を空けたから…。
「よいのか?勇者よ…」
扉の番犬、ケルベロスが尋ねる。
その目は、伝えられているように鋭くなく、穏やかだ。
「いい…。」
「魔王様に勝てば、お前は英雄だというのにか?」
「いい。」
「勇者よ…、お前ほど、亡くすのが惜しい人間はいない。」
「………。」
「今、ここを去り、静かに暮らせばよかろう?」
「無理だ。…無理、なんだよ」
今、自分はここにいる誰よりも暗く澱んだ眼をしているだろう。
思い出すのは、旅路でのあの、あの、悍ましい行為。
「もう…終わらせたい。」
「お前のような勇者は、一人もいなかった。皆、魔王様に挑み倒したと信じて、英雄の名を手にしていった。…魔王様は、お優しい方。お前が、死を望むなら叶えてくれよう。」
扉が開き、暗闇がオレを手招く。
「幸なき勇者に、幸あれ…」
「ありがとう。」
3つ首の太古の門番であるケルベロスは、神官のようにそう祈り、オレを送り出した。
一歩一歩、歩く度に、闇に包まれ、魔王の威圧感に圧迫される。
やがて、燭台の蝋燭が煌々と辺りを照らす広間まで着き、階段を数段上った所にある玉座に、漆黒の髪、頭の両側に生えた黒銀の角、紅に揺らめく瞳、人を超越した美貌を持つ男、魔王がいた。
「ようこそ、我が城へ…。歓迎するぞ、勇者エドウィン。」
オレは口角を上げた。
「それは嬉しい限りだ。」
あぁ…やっと終わる。
やっと終えることが出来る。
「ずっと会いたかったんだ、魔王。」
告白にも似た言葉。
ある意味、焦がれつづけた存在だから間違いではない。
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