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狂気ノ噺
どうしようもなく、甘い



「鴉白、あしろ…」

「なぁに、黒兎?」



部屋に響く機械音。



「死んじゃうの?アヤ姉、死んじゃうの?」

「死んじゃうかもねぇ…。でも…」



僕はそう言って、黒兎の真っ黒な髪が生えた頭を抱き寄せる。
ふわふわした髪からは、日だまりのような香りがした。



「大丈夫だよ。だから泣かないでぇ?」



真っ赤な目で泣き続ける黒兎は可愛い。
でも、それが僕のためじゃないってのはムカつく。



「アヤ姉、アヤ姉…」

「黒兎、アヤ姉が死んでも、僕はずっと側にいてあげるよぉ。」

「ほん、と?」

「本当ぉ。だから、忘れちゃいなよ。死にかけの女のことなんかさぁ。」



黒兎は情緒不安定になると、記憶をすり替えてしまうことがある。
特に、辛い記憶は…。
たとえば、今回のように惚れた女を殺すような場合。
まぁ、僕にとっては好都合だけどね。
後は快楽漬けにして、飛ばせば次には惚れた女も、ただの他人になる。

非道?
褒め言葉だね。
僕は黒兎を守るためならなんだって利用するよ。



「鴉白、鴉白…ぎゅってして。」

「いいよぉ。」

「鴉白、好き。大好き。」

「僕も好きだよぉ。ねぇ、黒兎ぉ、お家帰って気持ちいいことしよぉ?」

「うん。沢山、愛して。それでね、」



―――沢山、壊して。



「うん、わかったぁ。」



黒兎は弱い。
とても弱い。
だから、守るんだ。
本当なら真綿に包んで、宝物のように部屋に閉じ込めてしまいたいけど、僕らには帰る家なんてないから…。
だって『殺し屋』だから。

とっくに僕らは壊れてるかもしれないけど、これ以上壊れないようにするため、僕はなんでも利用する。



「鴉白、鴉白、甘いのちょうだい?」

「ん…」

「…んちゅ、ちゅ………は、んむぅ……」



ただし黒兎には一切気づかれないように…。

甘い甘いキスをしながら、黒兎に甘い甘い毒を飲ませる。
それは甘い言葉という毒。
もしくは甘い洗脳。



「黒兎、大丈夫。僕がずぅっと一緒だからねぇ。」

「死ぬときも?死ぬときも?」

「うん、一緒だよぉ。」



へにゃりと笑う黒兎に、キスをして甘い毒を染み込ませる。



「死ぬときはぁ…」



―――僕が、殺してあげる。



女が死んだ機械音が、どこか遠くで聞こえた。

これでまた、黒兎は僕だけのもの…。


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あきゅろす。
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