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狂気ノ噺
カ ナ シ
※『哀し』の続き



あれから200年。
魔族の里は完全に前の姿になった。



「幸せそう。」



テラスから里を見る魔王は言った。
しかし、前のように応える者はいない。



「皆幸せそうだよ。」



もう、そうですね、と言ってくれる者はいない。



「パーティー…やろうかな?」



魔王は、独りで準備に取り掛かる。
下働きの者にあれこれ指示を出し、こしらえていった。



――――――――――――――



パーティーは笑い声が絶えず、気の向くままにくるくる踊る。
しかし、魔王の目には全てが霞んで見える。
それでも笑顔を浮かべ、共に楽しもうとした。

パーティーは3年も続き、沢山の命が生まれ、沢山の出会いがあった。

和やかで、暖かく、柔らかな、愛しい時間が緩やかに流れ、それは永遠を彷彿させたが、永遠ではなかった。

老いることも、死ぬこともない身体とは逆に、魔王の心はゆっくり死へと向かっていた。
傍らにいつもいた存在がいないことが永遠を壊した。



――――――――――――――



夜のことだった。
眠っていた魔王の所に微かに鉄錆の臭いが漂ってきた。
それは次第に濃くなっていき、異常だ、と目を覚ます。



コンコンコン…



「どうぞ?」



入ってきたのは…



「っ!」

「久しぶり。」

「な…で?キセ」



血まみれのキセだった。
ぽたり、ぽたり、と血が滴り落ち、赤い染みを作っていく。



「お前、どうして?」

「………ぷっ!アハハハハッ!!俺は死んでねぇよ。死んだのは…お前が大切にしてた民だ。」

「!?」

「お前は、側にいる俺を気にもしなかった。気にするのはいつも民。なら、ソレを奪ってしまえば、お前は俺のモノになんだろ?」

「皆、殺しにした…のか?」

「あぁ。」



魔王は涙を零し、目を閉ざした。



「悪夢は最後…」



魔王の最期の言葉にキセは妖しく笑う。



「最後?始まりの間違いですよ、俺の―――。」



嗚呼、久しぶりに自分の真名を呼ばれた、と意識の片隅で思うと、魔王は自分を抱くキセに身を委ね、眠りについた。



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あきゅろす。
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