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狂気ノ噺
愛し

昔、美しい魔王がいた。
歴代の魔王の仲でも群を抜き、美しく優しい魔族の賢き王だった。

容姿は闇色の髪に真っ白な肌、双眸に収まる瞳は月の銀。
一度見た者は魅入られ、動けなくなるという。

魔王は、親に捨てられた子を進んで引き取り、魔族の里で育てさせた。
魔族の里は、人と魔族の織り成す柔らかな笑い声に包まれていた。



「楽しそうだ。」



澄んだ声で魔王は城のテラスから里を眺める。
側近の魔族、キセはふわりと笑う。



「あなたも楽しそうだ。」

「そう?あ、そうだ!今度城でパーティーしよう?高位も低位も人間も関係なく!」

「そうですね。きっと皆喜ぶ。」



キセはそう言うと、真珠色の髪を一本抜いて、即席ゴーレムを造るとパーティーの準備を始めるように言った。

いまだ楽しそうに民を見つめる魔王の背をキセは愛おしそうに見た。



「愛してます、我が王よ…」

「んー?何か言った?」

「いえ、なにも。さて、準備でもしますかね?」

「うん!」



和やかで、暖かく、柔らかな、愛しい時間が緩やかに流れ、それは永遠を彷彿させた。



――――――――――――――



パーティーは1年半続いた。
途中、新たな命が里に加わったり、迷える旅人が来たりという変化もあった。



「きらきらしてる。」

「魔王様?」

「ほら見て、キセ。民があんなに嬉しそうに笑ってる。綺麗に命が輝いてる。素敵…」

「そうですね。あなたもそうだ。」

「………ぷっ!」



魔王は笑い出す。
キセは困惑したような表情を綺麗な顔に浮かべた。



「敬語、喋れないなら無理することないよ。パーティーでは無礼講なんだから。」



それに…と魔王は微笑む。



「お前は、私の唯一の友なんだから。」



魔王はそう言うとキセの手を引っ張り、踊ろう!と民の中に連れていった。



「………友か。俺は友でしかないんだな。」



キセが悲しそうに笑ったことも、その目にゆらぐ狂気にも皆気づくことはなかった。



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あきゅろす。
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