狂気ノ噺
ほ+
記憶はとても美しく、残酷だった。
オレは相変わらず『宮』で、でも世界は『外』だった。
『外』でオレは、『D』というチームの総長、龍の恋人。
アールやファイをもしのぐ、氷のような鋭利な美貌の龍は、見た目とは裏腹にチームのメンバーには優しく、総長っていうより頼れる兄貴みたいで、平凡で何の取り柄もないオレには溶けてしまいそうなくらいの愛を注いでくれた。
チームは最強とはいかないまでも、そこそこ強い力を持っていた。
名前は知られていない方だったけど、縄張りの住人には、やんちゃ者を上手くまとめて守ってくれると評判で、『D』だと名乗れば皆、暖かい顔をしてくれた。
幸せな毎日。
甘く蕩けそうな毎日。
けれど、突然、残酷な終わりを告げる。
いつものようにたまり場のバーに行くと、店内は荒れに荒れ、仲間が血まみれで倒れていた。
一人一人がひどいリンチに遭ったようで身体が震えた。
そして、最悪の事態を予感した。
開け放たれている龍の部屋のドア。
震える身体を叱咤して、部屋に入る。
「ひっ!龍!」
綺麗な顔はぐちゃぐちゃだった。
細く優しい指は潰されていた。
ハイキックが得意な長い足は、あらぬ方向に折れていた。
「龍、龍っ!!」
「み、や…」
オレは汚れるのも構わず、龍を抱きしめた。
「宮、逃げろ…」
首を振る。
オレはケータイを出して力の入らない指で救急車を呼ぶ。
いや、呼ぼうとしたのだ。
スッと背後からケータイをとられる。
「宮、逃げ」
「逃がさねぇよ。」
振り返ると、漆黒の人と銀色の人。
「宮っつたな…クク…そいつ、助けてぇなら俺のとこに来い。」
「え?」
「つまり、俺らに飼われるってゆうなら、仲間は生かしてあげる。」
オレは迷った。
目の前にいるのは、No.1チーム『ギリーク』の総長、副総長で端から勝ち目などない相手。
けれど、仲間を傷つけた敵。
「宮、」
オレの大切な愛しい恋人は、痛いだろうに微笑み、真っ赤な手で頬を撫でた。
「愛してる。…生きろ」
パタリと落ちた手。
遠ざかる世界。
冷たくなる身体。
龍が消えてゆく、消えてゆく…。
暗くなる視界の中、消えていく音の中、耳にした声。
「壊れたな。これでやっと手に入る。」
陶酔した声は闇に飲まれた。
聞こえる音は雨の音。
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