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狂気ノ噺


オレは記憶喪失だ。
目が覚めたら、アールとファイが作った部屋という檻の中にいて、自分が何者なのか、今までどんな生活をしていたのか、何でここにいるのか、全て忘れていた。
わかるのは一般常識だけ。

アールとファイはオレを宮と呼び、大切にしてくれた。
オレはこの檻から出ることを禁じられている。
別に苦痛じゃない。
オレの世界は二人だから、二人さえいてくれれば他がどうであろうと興味はない。



「暗い…」



だから今は退屈だ。
二人は出掛けてしまい、赤い世界を見なくていいようにと目隠しをされている。



ガチャ…



「ただいま、宮。」

「おかえり、ファイ。ね、これとって?」

「うん。」



しゅるりと取られた目隠し。
視界に赤とファイが映る。

あ、ファイから…血の、におい…。



ズキン!



「ぐっ…」

「宮?どうしたの?」

「頭、痛い…。」



視界がノイズに侵される。



ズキン ズキン ズキン…



ぶれる視界。
オレは身体を丸め、頭を抱えた。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ。

まるで何かが頭をもたげていくかのよう。
押し寄せて拒むことのできない何かに襲われる。



―――生きろ。



ギュッと閉じた瞼の裏に浮かんだ知らない顔。

思い出せ、思い出すな、思い出せ、思い出すな、思い出せ、思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せオモイダセ!!!!



パリン…と壊れる音がした。
そして静寂。



「『大丈夫?宮?』」

「!」



重なる懐かしい声。
それから襲い来る記憶の波。



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