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狂気ノ噺
赤い執着

長い戦があった。
世代を代え、500年もの間続いた戦は、敵側の勝利という形になった。

オレは、男ながらも後宮に押し込められていた妾の一人で、代々の王に抱えられてきた。
勿論、他の女たちは変わっていく。
美しいもの、可愛らしいもの…様々な美姫たちが後宮にいた。
けれど、オレだけは変わらずにここにいる。

オレは、500年前『神子召喚』でこちらにやってきた。
高校生をしていたオレは、訳も分からないこの土地で生きることを勝手に強いられた。
しかも、その時こちらの世界に来たのはオレだけじゃなく、当時の高校で風紀を乱しに乱していた元凶の子と一緒だった。
見た目だけは、美しいその子を神子とするのは早かった。
けれど、神託ではオレが神子だった。
神官たちは、もう1人に傾倒する王に何度もそれは違うものであると言ったが、王は聞く耳を持たなかった。

オレとしてはありがたかった。
1人だけど、何かを強いられることもなく、ただ日々が過ぎていく。
部屋から出られない不自由さはあれど、勝手に呼ばれて、勝手に神子に祀り上げられるよりはましだと思った。
けれど、呆気ない終わり方をした。

王は、愛する者と、オレを同時に手に入れることにしたらしい。
神子の恩恵に授かるには、契りを交わさなければいけないという。
だから、王はオレを犯した。
心が伴わなくとも、契りさえ交わせばいい…そう考えたようだ。
オレの悲鳴が凄まじかったのだろう。
魔術師により、まず声を取り上げられた。
毎夜の苦痛に耐えられず逃げだせば、近衛の隊長に足の腱を切られた。
逃げることが無理ならば、相手を殺してしまおうとナイフを手にしたが失敗した。
その代償に、王に両手を落とされた。

痛み、苦しみ、悲しみ。
オレの最後の自由は死ぬことくらいだった。
何回も舌を噛み、猿轡を噛まされた。
何日も絶食し、水すらも絶ち、とうとう自由に手が届くと言うところでまた奪われた。
国1番だという魔術師に不死の魔法をかけられた。
全てが奪われ、ただ物のように扱われ、壊れていくオレに気付いたものはいなかっただろう。

ひたすら願った。
国王の破滅を、国を思っているというのなら国の破滅を。
怒り、憎しみ、恨み。
それだけが、オレの中を渦巻いていた。

時の止まったオレの体は、何もしなくとも死なず、酷い扱いを受けても死なず、時に優しくされたとしても魔法が解けることはなかった。

オレを召還した時の王は、結局、息子の謀反に遭って失脚し、処刑されるまでオレにしたことの過ちに気付かなかった。
息子が王になった治世は、戦の間にしては珍しくも穏やかだった。
治世も長かった気がする。
オレへの扱いは、あまり変わらなかったが…。
犯しこそしなかったが、ただの道具同然のように扱われ、後宮の奥深くに閉じ込められ、血だけでも加護があるというので、定期的に血を取られた。

長い長い戦。
長い長い命。
そして、終わることのない苦痛。
自分の黒い感情でさえも苦痛だった。

眠るたびに、世代が変わるたびに、いつ解放されるのかと考えていた。

そして、今日。
オレよりも先に、この国が死んだ。
それを知ったのは、オレの部屋の扉を見知らぬ兵士たちが蹴破ってきて、中庭に引き摺り出されたから。
敵の王によって死んだ王の正室、側室がそこにはいた。
みんな、オレを見て顔をしかめている。
目を逸らす者や、あからさまな嫌悪の眼差しを向ける者もいた。
それはそうだろう。
平凡な容姿に、やせ細った身体、足首には醜い傷跡、そして手首から先のない手。
拷問された捕虜のようじゃないか。


「この中で、伝説の姫がいると聞いた。王は、その方をご所望である。私がそうだという者はいないか?」



美姫たちはひそひそと話し合う。



「いないのか?」

「いたとして、その方はどうするのですか?」

「王の寝所にあげられる。つまり正室として迎えられる。」



その言葉を聞いた美姫たちは、我こそはと名乗りを上げた。
声のないオレにはどうでもいいこと。
やっと、1つだけ叶ったんだ。
後は捨ててくれればいい。
もう、猛獣に食い散らかされようと、猛禽にこの身を啄まれようとどうでもいいのだ。



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あきゅろす。
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