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狂気ノ噺

〜Sideヒロ〜



暖かい…。
心地良い暖かさが僕を包んでくれる。
滑らかで、柔らかく、暖かい。



「………え?」



夢と覚醒の間を漂っていた意識が急上昇し、パチリと目を開けると誰かの胸が眼前にあった。
そろりと顔を上げれば、調ったシュウの顔。
瞬間的に、昨夜の行為を思い出して、カッと顔が熱くなり、叫びそうになった。
それをなんとか飲み込み、代わりに息を吐く。
落ち着いてきた頃にまじまじとシュウの顔を見た。

いつもの大人っぽさはなく子犬のようなあどけない顔で眠っている。
髪も乱れて色っぽい。
アンバランスさにおかしくなった。



「……ヒロ」

「!」



声に驚き、シュウを見るが目は覚めていない。



「…どんな夢見てるんですか?」



僕は眠るシュウに尋ねる。



「……どうか、僕をこれ以上つなぎ止めないでください。死ねないじゃないですか。」



クイーンに続いて二人目。
肌の感触、心臓の鼓動、互いの温もり。
知れば知るほど、さよならしにくくなる。
繋ぎ止める鎖のように絡み付いて、生からの脱却を許してくれない。
クイーンも、シュウも、僕が得られなかったものをくれる。
愛してくれる。
それこそ、普通の人のように。
それが嬉しくもあり、苦しくもある。

でも、まだ大丈夫…。



「さてと…ちょっと死んできます。」



僕はシュウの温もりから抜けだし、服を適当に身に纏って部屋を出た。
ひやりとしたクレイジーハウスの共有スペースにあるソファに横になる。
まだ薄暗く、コトリとも音がしない。
もう慣れてしまった微かに漂う血の匂い。
僕を含め、皆が纏う鉄錆の香。
その匂いに何故か安心する。
例えるなら、そう…母の胎の中みたいな…。
実際は知らないが、腹の中にいるんだから初めて嗅ぐ匂いは血の匂いなんじゃないかな。
だから安心する。

それにしても…



「腰、痛いな…」



僕は再びやってくる暗い闇に、意識を委ねていった。



トクン…トクン…



どこからか心臓の鼓動が聞こえる。
いつの日か止まるだろう音。
でも僕は、この音を自分の手で消したいんだ。
できるだけ、早く…。



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