狂気ノ噺 8 ヒロは、はっとすると怯えた目で俺の傷を見る。 「あ、あぁ…」 ヒロは弱い。 極度に弱い。 何がその身に起こったのか、末端しか知らないけれど、きっと本来なら明るく、俺たちの世界にいるべき人間なんかじゃない。 それをこんなにまで歪ませ、壊した奴が憎い。 ハハ…。 俺にもこんな感情あったんだ。 憎いけど、既に殺した奴ら以外に誰がいるかなんて分からない。 ヒロから聞き出したいとも思わない。 きっと、それにヒロは堪えられないから。 「ど、しよ…どうしたらいい?」 「ヒロ…。」 「お願い!なんでもするから、捨て…な、で…」 涙を浮かべた目で、上目使いって反則でしょ。 あぁ…理性なんかクソくらえ。 もう我慢も待ちもできない。 「ねぇ、み…さき…」 その白い首に今すぐ、跡を残したい。 刃でつくる赤ではなく、キスでつくる赤い花びらを散らしたい。 ねぇ、ヒロは許してくれるかな? 今からすることを、許してくれる? まぁ、許さなくてもいいかな。 俺が欲しいのは「許し」なんかじゃなくて、ヒロだから。 「岬?」 「ヒロ、ヒロは償いたいの?なら…」 最低なんて百も承知。 思いが歪んでるのは、この家じゃ常識。 「ヒロを、ちょうだい。」 怯えた色が、不安の色へと変わった。 「大丈夫。優しく、どろどろに溶かしてあげる。」 俺以外、忘れてしまうほどに、ね。 [*前へ][次へ#] [戻る] |