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狂気ノ噺




「ただいま。」

「…ぉかえりなさい。」



今までなら返って来なかった返事に自然と頬が緩む。

狂っても幸福って感じれるんだ。

眠たそうに目を擦るヒロの姿が可愛い。
まぁ、今、夜中だしね。
本来人は日中活動するものだし。
末期の自殺願望者ってとこを抜けば、一般人とかわりないから、ヒロは。

死ぬの勿体ないのに…。



「クイ…」

「岬。」

「ゴメ…岬、血の…臭いするよ?」

「俺の血じゃないから。」

「ホント?」



眠たそうなヒロは、いつも以上に素直になる。
そして、人一倍他人が傷つくことに怯える。
前、賞金稼ぎだったターゲットを狩った時、怪我して帰ったら、真っ青な顔で何度も何度も謝ってきた。
別に、ヒロのせいじゃないのに。

それ以来、俺たちの中で怪我をしない、という暗黙のルールができた。
それでもヒロは、心配らしく部屋までついて来て体を調べようとする。
甘んじて受け入れるけど実はかなり理性が限界だったり。



「本当。今日は首をホルマリン漬けにしたら寝るから、部屋に帰りな。」

「やだ。」

「ヒロ、お前は聞き分けのないガキか?」

「…だって、嘘は……」

「本当だって言ってるんだ。少しは信よ、ヒロ!」



カタカタと震えるヒロ。
体を自分自身で抱きしめて、小さな声で「殺して殺して」と繰り返す。



「ヒロ、ヒロ!」

「いやあぁぁぁ!」




ヒロが常備しているリストカットのためのカッターがひらめいて、俺の頬に赤い傷をつくった。



「真広ッ!」





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