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学園ノ噺
ホールスタッフの喜悦

この学園はおかしい。
生徒第一主義で、僕たちホールスタッフはもちろんながら、この学園の教員でさえ生徒には逆らえない。
逆らえるのは、生徒同様に権力があるか、顔が良い人のみ。
無論、中には神が二物を与えてしまったような人もいるが…。

そしてオレたちは、今日も生徒『様』にお仕えしている。
全く…この学園はどうなっているやら。



「おい。」

「はい、何でしょうか?」

「特別ランチセット6つとオムライス1つテイクアウトする。」

「かしこまりました。」



今のは誰だったか…?
顔が良いからすごい人なのかもしれない。



「…おい待て。」

「はい?」

「…やっぱ、テイクアウトは6つだ。俺の分はここで食べていく。」

「かしこまりました。」



その言葉を聞いた周りの生徒が嬉しそうな声を上げる。
やっぱすごい人なのかも。
ま、オレには関係ないか…。

すぐに言いつけられたものを料理スタッフに伝え、オレはまたホールへ戻る。
しばらくして、頼まれた出来立ての料理を席についている凄そうな人に渡しに行った。
その生徒は、2階のテラス席にいた。

あそこって、特別な感じするよな…。いつも決まった生徒しか入れないらしい。
詳しくは知らんが。



「特別ランチセットでございます。」

「あぁ。」

「では、失礼します。」

「おい、」

「はい?」

「…名前、何ていうんだ?」

「?梶浦と申します。」

「下は?」

「稜ですが…?」

「梶浦…稜」

「あの、私の名前がどうかしましたか?」

「いや、いい。ありがとう…。」

「はい。」

「あ、」

「ん?」



おっとやべ。
頭下げて、さっさと退場しようとしたところまだ何か言おうとした生徒に素が出かかった。
公私混同とまではいかないんだろうけど、一応職場だからね。
ホールチーフの千葉さんに怒られる…。

首だけ向けたの正して、体ごと向き直る。



「まだ、何か?」

「いつもありがとな。」

「え?」

「美味い食事…。」

「いえ、こちらこそありがとうございます。料理チーフに伝えておきますね。では、失礼します。」



きっちりもう一回礼をして、その場を離れると何故か心配そうな顔をした千葉さんが待っていた。



「大丈夫だった?」

「あ、はい。それどころかすごく嬉しくて…」

「は?」

「『ありがとう』って、ここに来て初めて言われました!」



オレは嬉しくて仕方がなかった。
こんなにも『ありがとう』の一言が嬉しいだなんて想像できただろうか?
少なくとも、ここに来る前はあまり感じていなかったように思う。



「千葉さん、オレここに来れてよかったです!」






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