学園ノ噺
5
カノンは声が出ない。
七夜が保護するまで、虐待されていたらしい。
カノンは本当に気まぐれな猫みたいな容姿をしている。
ついでにいえば、強気で生意気そうな…。
真っ黒な柔らかいくせっ毛、ちょっと吊り目気味な大きな目。体格も小さく折れそうだが、猫のしなやかさでカバーしてるんだろう。
兄貴のことだから、アレに関しては容赦ないだろうし。
けど、見た目に反して中身は人懐っこい。
七夜いわく、俺たち兄弟限定らしいが…。
カノンは七夜にこの特別棟の門番を任されている。
年齢的には、俺より下なんだろうけど、生い立ちが生い立ちだけに、人の輪へ入れなくなってしまったので仕事をしている。
クィクィ…
「ん?」
カノンが指差した先には壁をよじ登る手の先だけが見える侵入者。
「監視カメラの映像、映せるか?」
頷いたカノンは、小脇に抱えていたパソコンを開いて、カタカタと操作すると、俺に見せてきた。
「あぁ…、最悪。早々に来やがった。」
映っていたのは、例のゴミだった。
何でよじ登ってんのかは知らねぇが、俺らのテリトリーに侵入してくるそいつに嫌悪感を募らせる。
『 だ れ ?』
「転校生クン。」
『 ど う す る ?』
「壁に一瞬だけ電気流せ。」
コクンと頷くと、パソコンをまた操作した。
遠くで、ギャッ!という声が聞こえた気がしたが、猿が鳴いたんだろう。
再び向けられた映像は、ゴミが壁の下に落ちている映像で、何があったのかわからないという表情をしていた。
「ありがとな。もういいぜ。あぁ、そうだ。今度登ろうとしたら、容赦しなくていい。頼りにしてる、番猫さん。」
そう言って、カノンの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。
気が付きゃ、授業はとっくに始まっていて、少し残念だが行かないことにした。
放課後、先生に何したか教えてもらおう。
仕方なく生徒会室に戻れば、ぐったりしている田中がいて、どうしたのかと思えば、ゴミから逃げて来たらしい。
あぁ、だから壁をよじ登っていたのか…。
その一部始終を聞いていた、中新田もまた語り出し、珍しく二人仲良く共感し合っていた。
なんだこれは…クサイ青春ドラマのワンシーンか?
結局、俺はゴミに遭遇することなく、無事、一日を終えた。
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