学園ノ噺
7
部屋に戻った僕ら。
泣きじゃくる萌黄を抱きしめ、背中を撫でる。
「ふっ……うぅ…ひっく……」
「萌黄…」
「っこんな世界大嫌いだ!」
萌黄の叫び。
僕の胸も締め付けられる。
「なん、なんでぇ?……ボク、が、我が儘、なの?…ボ、クがいけない、の?どう、して…どうして欲しいものは、手に、入んない、の?」
「萌黄、落ち着いて…」
「大、嫌い…」
きっと本家でも、何かあったんだ。
精神不安定なそこに、想い慕っていた人からの最後の打撃。
あぁ、萌黄…笑ってよ。
お願いだから…。
君を守るためなら何だってするから。
本家でのことは手が出せないけど、この学園という小さな君の王国でのことからなら、僕は君を守れる。
「黄慈、お願い…。」
「はい。」
「緑川翠を壊して…。」
その瞬間、浮かんだのは先輩の笑顔。
優しげな笑顔。
嬉しそうな笑顔。
時々、困ったような笑顔。
それから、妖しげな笑顔。
最後に満足そうな笑みを浮かべた寝顔。
僕は、一度目を閉じる。
そして応える。
「はい。」
「…ありがとう。」
力の抜けていく萌黄の体を支えて、ソファーに座らせた。
僕は、その前に片膝を着いてその手の甲にキスをする。
「必ず…。だから萌黄様はここで待っていてください。」
「うん。」
「では、準備かありますので…」
僕は部屋を出ると非常階段へ行き、紫桜に電話をかけた。
『どうした?』
「紫桜、これから僕は大きく動く。」
『…そうか。私に出来ることはある?』
「僕は萌黄になる。」
『っ!』
息を飲むのが聞こえた。
「だから萌黄をよろしくお願いします。」
『でも、それじゃ君は』
ぷつっと通話を切る。
携帯も非常階段下に投げた。
砕けた音にこれからのことを連想した。
「先輩、今行くよ。」
僕はもう一度寮内に戻って、先輩の部屋を目指した。
心のどこかで悲鳴が聞こえた気がした。
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