学園ノ噺
5
互いを激しく求めあって、今は身体を清めたあと、同じベッドで横たわっていた。
先輩は満足したような顔で眠っている。
僕はそれを目に焼き付けるようにかれこれ一時間ほど見ている。
解かれた黒の髪は、指通りがよく綺麗だ。
情事中の先輩は、少しサディスティックで何回も狂うような快楽でイかされた。
意識が飛びそうになるたび、さらなる快楽で起こされた。
「…あのまま快楽で溶けてしまえたらよかったのに。」
僕は先輩にキスをすると、そっとその腕の中から抜け出した。
散らばった服を着て、メモ用紙にさらさらと置き手紙を書く。
“先輩、ありがとうございました。でも、さようなら。先輩のことは好きですが、僕は相応しくない。もっといい方を見つけてください。本当にありがとうございました。”
先輩がくれたような愛を受けたことがないから、どう言えばいいのかわからない。
まるでどこかのセフレのようだな、と苦笑した。
けれど、こうするしか他に方法はない。
面と向かってしまえば、別れられない。
卑怯かもしれないけれど、これ以外に僕は方法を知らなかった。
ペンを置いて、静かに先輩の部屋を後にした。
静かな廊下。
静かな僕の周り。
僕に与えられるのは『無』。
そんな僕でも何かあげられるなら、これからは萌黄のためだけに…。
「苦し…」
ぽつりと呟いた言葉に、余計苦しくなって、息を詰まらせる。
視界がぼやけてきて、部屋に着いた頃には頬は涙に濡れていた。
自室のベッドに横になるともっと苦しくなる。
ベッドのシーツは冷たくて、僕の体温を少しずつ奪った。
本や、萌黄のくれた物だってあるのに、寂しく感じる。
あぁ、そうか…。
ここには何もない。
なんにも…。
「せ、んぱ…」
苦しくて、苦しくて…。
でも、僕には萌黄がいる。
大切なあの子を守るため、僕は学園に来たんだ。
だから、忘れよう。
僕には必要のないことだ。
第一、この関係だって、先輩が帰ってしまえば終わりだ。
脳裏に浮かぶ先輩の笑みを消し去って、萌黄の無邪気な笑みを浮かべる。
「…愛してくれて、ありがとうございました。」
僕は手にした携帯から先輩のアドレスを見つけると、着信拒否に指定し、アドレス帳から消去した。
身体から匂う先輩の香りを消すために、怠い身体を引きずってお風呂に入り、身体の隅々まで洗い直した。
暖かいシャワーに、涙も、香りも、思いも流す。
風呂から上がり、目に冷たいタオルを当てて温かくなる度に、水で濡らし、再び当てる。
そうしているうちに眠気が襲ってきて、冷たいベッドに横になると目を閉じた。
明日からは、いつもの僕だ。
萌黄が帰ってきたらまず何しようかな?
好きな料理でも作って、特別にデザートも付けよう。
それから…それから………―
僕はいつの間にか眠りについていた。
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