学園ノ噺
3
先輩が去ると本当に暇で仕方がない。
見た目に反して、強引なところとか、賑やかなところとか…。
とにかくいなくなると僕の周りは静かな無になってしまうから暇だ。
いつもなら萌黄のためにすることが沢山あったのに…。
僕は誰も来ない噴水のある裏庭で噴水の縁に腰掛け、読書をしていた。
この本は萌黄が大好きで、僕にも読んでほしい、と渡してきたものだ。
「ねぇ、」
顔を上げると赤茶色の髪をしたかわいらしい人がいた。
鼻を犯す化粧の匂いに、萌黄から聞いた親衛隊の人だろう、と納得した。
「何でしょうか?」
「…僕は親衛隊総隊長の赤石茜。君は金井黄慈君だね?」
「はい。」
本に栞を挟むと閉じて傍らに置く。
「お願いがあるんだ。」
「何でしょうか?」
「萌黄様に生徒会の方々から離れてほしいんだ。それを説得してほしい。」
僕はやっぱり…と思った。
「すみません、僕には無理です。」
「っ…!あなたがあの方に反抗出来ないのは知ってる!でもこのままじゃ、この学園が壊れてしまうんだ!」
「何故?」
「え?」
僕は萌黄の幸せを守るためなら何だってする。
だから、ごめんね。
「生徒会が機能していないのは知ってます。ですが、どうしてそれごときで壊れるんですか?あの人たちだって、いつかは学園を卒業するでしょう?それで学園が崩壊するなら、あなた方は生徒会に依存しすぎているのでは?」
「…たしかに、そうかもしれない。でも!」
「その先の言葉はただのエゴです。そんなつまらないもので、萌黄様の幸せを壊さないでいただきたい。」
震える赤石さんの肩。
噛み締める唇から、血が流れている。
「…すみません。でも萌黄様の幸せを壊さないでほしい。」
エゴだ。
僕の言葉だってエゴなんだ。
顔を上げた赤石さんは僕の顔をじっと見る。
「もし、萌黄様の幸せに代償がいるなら僕が払います。だからそれまで…」
「君はどうしてそこまでするの?」
本当に不思議そうな顔をして問い掛ける赤石さん。
風か吹いて僕らの頬を撫でた。
「約束、したから…」
一度は破ってしまったけれど、今度こそ守りたいんだ。
大切な、大切な約束。
「では、失礼します。」
僕は立ち上がり、自室へと帰った。
だから知らなかったんだ。
赤石さんが、悲しげな目で見つめていたことを。
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