学園ノ噺
Our hope
編入して早三月。
萌黄はやはり独りだった。
「萌黄様!どこですか?」
「こっちだよ!」
萌黄は学園の森の中にある湖の側にいた。
綺麗なガラスの小瓶を持っている。
「どうしたんですか?夕食も食べないで…」
「…黄慈、ボクね、願い事があるんだ。」
湖に向けられたままの視線はいつもより嬉しそうで、柔らかい。
それが嬉しくて、僕も微笑む。
「どんな願い事ですか?」
「ふふ…それは秘密!」
幸せそうな、くすぐったそうな可愛いらしい横顔。
最初こそ拒絶するような笑みしか見せなかったが、すぐに前のように笑ってくれるようになった。
「それは残念です。それでそのガラスの小瓶は?」
「あのね、願いを書いた紙をガラスの小瓶に入れて、この湖に流すといつか願いが叶うっていう言い伝えがあるんだ。」
「で、それを試しに?」
「うん!…でも、いざとなると流せ、あっ!」
ヒュッ パシャン…
僕は萌黄から小瓶を奪って、湖に投げた。
「な、どうして!?それじゃ、ボクの願い事じゃなくて黄慈の願い事になっちゃうよ?」
焦る萌黄に僕は微笑んで言った。
「はい。でも大丈夫ですよ。僕の願いは萌黄様の願いと一緒ですから。」
「え…」
「ね?」
「……うん!」
僕の、僕らの願いは一つ。
“ずっと一緒に…”
たった一つの願い。
心からの小さな願い。
僕らはどちらともなく手を繋いで、湖に浮かんでいるガラスの小瓶が流れていくのをじっと見つめた。
いつの間にか、空には星が瞬いて、月も上っていた。
「空が綺麗ですよ、萌黄様。」
「ホントだ。プラネタリウムとは大違いだね。」
「そりゃそうですよ。本物には何も勝てませんから。」
「うん。ボクらの願いも本物だから誰も敵わないね!」
「はい。」
萌黄が少し強く握ってきたので、僕も強く握り返した。
「それじゃ、帰りましょうか?今夜の夕食はハンバーグですよ。」
「やったぁ!」
僕らは湖を後にした。
帰った萌黄は僕が作った料理を美味しそうに、幸せそうに食べていた。
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