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学園ノ噺
〜紫桜Side〜

今日、彼がやってくる。
海外に飛ばされ、会うこともなくなっていた黄慈。



「失礼します。」

「どうぞ…」



入ってきた彼は片割れより大人びていた。
隔世遺伝で表れた金髪は纏められ、凛とした空気が彼を引き立たせている。

片割れである、萌黄とは全く逆の人間だ。
萌黄は容姿こそそっくりだが、甘ったれで、我が儘、人のことなど気にもとめない。
それが金井の次期当主だというのだから終わったも同然だ。



「元気だったかい?」

「うん。そこそこ。」



腕の中に抱き込むと、じんわり暖かさが伝わってくる。
背も若干伸びたくらいで、大して変わっていないようだ。

その後、彼の決意を聞かされた。
別にこの学園がどうなろうと気にしてはいない。
気にしているのは、黄慈のことだ。

本当なら、そっとしておいて、時期が来たら迎えに行くつもりだった。
だが、萌黄が今すぐ呼び戻すことを命じた。
私は、正式な当主決定の儀まではなんの力もないから、従わざるをえなかった。
理由を問えば…



『だって、アレはボクの物なんだから、側にいるのが当然でしょ?』



と答えた。

私は萌黄を当主として認めないだろう。
金井が壊れようが、滅びようが知ったことではない。
もっと当主としての逸材はいるのだから。
真の価値を見なくなった、しきたりにこだわるような者に一族を委ねるくらいなら、分家にその座を空け渡すか、滅んだほうがいい。
いや、あの本家の人間のことだ、なにがなんでも座は渡さないだろう。



「…そうか。」



君の決意はわかった。
変わることがないこともわかった。
黄慈…君はきっと死んでしまうよ。
萌黄の駒にされて、捨てられる一人になる。
けれど、君が望んだことなら私は口も手も出さない。



「それじゃ行くね。」



立ち上がり、部屋を出ていく後ろ姿に私はまた来るように言った。

つらくなったら、おいで。
私が守るから…。
けれど君は、もうここへ生きては来ないんだろうね。
私は君が生き絶えるその日まで見届けよう。
そして骸となった体を優しく抱きしめて、温度を分けよう。



「どうか、彼に多くの幸があらんことを…」



私は無理な願いを祈った。



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