学園ノ噺
2
理事長室に着くと、従兄弟の紫桜が温かい抱擁で迎えてくれた。
「元気だったかい?」
「うん。そこそこかな。」
紫桜は理事長だ。
紫がかった長髪を一つに纏め、高そうなスーツに身を包んでいる。
25という若さで金城学園を運営する敏腕。
カリスマ性も、浮世離れした美貌も、頭脳も、一族の中で群を抜いている。
「すまなかったね、いきなり呼び寄せて。」
「いえ。…片割れに会えることが、すごく嬉しいから。」
そう…ずっと心待ちにしていた。
完全に引き離される前、僕らは…いや、僕は泣いていた片割れと約束した。
『僕が君を守るから、君は笑ってて。』
今も約束はこの胸にある。
もう泣いてる顔は見たくない。
「…そうか。その片割れ…つまり金井萌黄なんだけどね、問題が生じてるんだ。」
「僕の身を案じてるなら気にしないで。あの子はずっと独りで堪えていたんだから…」
知ってるよ。
引き離された後、萌黄は外に出ることも許されず、同年の友達と遊ぶことすら許されなかったこと。
金井の次期当主として、その歳の子供がやるべきことをしないで、冷たい檻に入れられ、そのくせ崇められていたこと。
僕はそこから救い出すために、ここへ来る決心をした。
義父や義母には返しきれない恩があるが、笑顔で、助けてらっしゃい、と見送られた。
「黄慈はいい子だね。とてもいい子…」
「人が言うほどいい子じゃないよ。義父さん義母さんに、何も返せない親不孝者だ。自分の我が儘ばかり。」
僕は俯いて、自己嫌悪に陥る。
これからもっとこの学園は荒れるだろう。
「紫桜、僕は我が儘だから、学園の生徒じゃなくて萌黄『様』を優先するよ。…ごめんね。」
紫桜は目を瞠り、そして儚く笑ったその目には、悲しみの色が浮かんでいた。
「…そうか。」
それだけ言うと、紫桜は理事長モードに切り替わり、寮の説明や、カードキーの説明、食堂の利用の仕方、学園の特殊性について淡々と説明してくれた。
「―…以上だけど、わからないとこはある?」
「大丈夫。そっか…同性愛ね。」
「黄慈は可愛いから気をつけてね。」
「いや、可愛いくないから。」
まぁ、でも気をつけるに越したことはないな。
礼を言って、理事長室から出ていく僕に、また来なさい、と声がかけられた。
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