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創作小説
敗北、そして1

森の奥深くにある小さな洞窟。
トレイタはその入口に降り立つと魔力で作られた翼を消した。
そして外で着いた砂ぼこりをはたき落としながら洞窟へと入っていく。
「勇者達に会ってきた」
トレイタが洞窟の奥へと向かって短く言うと、奥からは獣の唸り声が返ってきた。
トレイタは言葉を続ける。
「勇者って言うわりには弱かったよ。まぁ所詮は召し上げられた奴等だからね。肩書きに実力が伴ってないのは仕方ない」
トレイタの言葉に相槌を打つように獣の唸り声は返事をした。トレイタは顎に手を当て少し考えるように俯く。
「…………何にしろ、せっかくの人間達の『希望』なんだ。存分に利用してやるよ」
そう言ってトレイタは薄く笑った。



一方ブライト達は一旦街に戻ってきていた。
街角にある洒落た喫茶店でブライトとエルザ、そしてアスカが席に座っている。
彼等の前にはそれぞれ冷めた珈琲の入ったカップが並んでいた。
三人の表情は世辞にも明るいと言えるものではなく、まるで誰かの訃報を聞いたかのような雰囲気が辺りを取り巻いている。
そんな彼等の元に、同じく暗い顔をしたリュウガが合流した。「とりあえず城には手紙を飛ばした。『小鳥屋』には速達で頼んだから……3日以内には軍に届くだろう」
リュウガは空いている椅子に座ると静かにそう言った。
リュウガは軍へ悪魔出現の旨を報告する手紙を出していた。
ブライトは顔をあげてリュウガを見ると礼を言う。
「ありがとうリュウガ」
そんなブライトにリュウガは「仕事だからな」と短く応えると口をつぐんだ。
そんなリュウガの表情からは先の戦いでの攻撃が―――軍最高峰と自負する己の魔術が通じなかったという悔しさが滲み出ている。
それはリュウガだけに言えることではなかった。
エルザは小さく唇を噛み、膝の上で握り締められた拳を見つめている。
盗賊として、若いながらに数々の修羅場を潜り抜けてきた彼女もまた、己のプライドを傷つけられ悔しさに歯噛みしていた。
「…………」
ブライトはそんな周りの様子を見渡すと眉間にシワを寄せ、目を閉じる。
少しの間そうしていたかと思うと、ブライトは瞼を上げて口を開いた。
「よし、次行こう」
ブライトの声に三人はそれぞれ顔をあげてブライトを見る。
ブライトはそんな彼らに笑いかけた。
「暗い顔はもうやめやめ!それより俺達は前に進まないと!だろ?」
まるで今日の戦いの失敗など何でもないと言うようにブライトは明るく笑う。
そんなブライトにエルザは少し驚いたような表情を浮かべると、詰めていた息を吐き出した。
「……それもそうね。過去なんて振り返ってられるほど私暇じゃなかったわ」
そう言ってニヤリと笑うエルザに、ブライトは笑みをこぼす。
そんな二人にリュウガは一つため息を吐くと片手で乱暴に頭を掻いた。
「確かに今考えるべきは己の事ではなく、これから俺達がどうするか……だな」
眉間のシワは消えていないが、それでもリュウガを包んでいた刺々しい空気が和らいでいく。
だんだんとブライト達はいつもの雰囲気を取り戻していった。

そんな中、一人だけまだ俯いたまま顔を上げられずにいる者がいた。
「……」
アスカは、震えそうになる手を強く握り締めた。
だんだんと活気を取り戻すブライト達とは対照的に、彼女の顔色はあまり良くない。
そこには今日の出来事への恐怖とこれからへの不安が見え隠れしていた。
しかしアスカは邪念を払うように首を振ると、顔をあげる。
(しっかりしなきゃ)
アスカは心の中で自分に喝を入れると、地図や紙を取り出しているブライト達の方を向いた。

「昨日の話だと悪魔の進行はもっと先だったよな?」
ブライトが昨日リュウガの引いた線を指して尋ねる。
リュウガは頷いて地図上に書かれたとある村を指差した。
「ああ。悪魔被害の報告を受けた中で一番首都に近かったのがアーナ地方のベルゼ村だ。ここから北東に森を3つ、山を2つ越えた先にある」
つまりトレイタはベルゼからここまで誰にも見つからずにここまで来たということになる。
「まあ形だけで考えれば人間と悪魔なんて耳くらいしか違いがないし……あのフード被ってたら案外見つからないのかもね」
そう言ってエルザは冷めきった珈琲に手を伸ばした。

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