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創作小説
黒い少年2

アスカとブライトはお互いに目を合わせると同時に飛び出した。
その後ろではリュウガが杖を構えて短く詠唱する。
「〈オクト・ボルト〉」
杖から発せられた8本の雷が、ブライトとアスカを避けるようにしながらトレイタに襲う。
先程の魔法より数が分散しているため威力は小さいが、四方八方から襲う雷はトレイタから逃げ場を奪う。
しかしトレイタは持っていた小刀を真上に放ると、手のひらで雷を弾いた。
先程魔法を弾かれたときは一瞬で分からなかったが、トレイタの手のひらに黒い魔力がコーティングされているのが見える。
「数を増やせば当たるとでも思ったのか?」
全ての雷を弾き飛ばしたトレイタは落ちてきた小刀を手に納めるとそう言った。
リュウガは眉間にシワを寄せると、強く舌打ちする。
ブライトは両手の魔剣を構えると意識を魔剣に集中させる。
魔剣はブライトの意識に反応するように、蒼く光った。
ブライトは剣を強く握り締めると、トレイタに向かって振りかざす。
「へぇ、魔剣使いか」
トレイタは少し感心したような表情を浮かべると、唇をなめた。
そして小刀を持っていない方の手のひらを前に突き出すと軽く目を細める。
直後、トレイタの手のひらから黒い魔力が放出されブライトとの間に魔力のベールが作られる。
ブライトの攻撃はベールに阻まれ、トレイタに届くことはなかった。
「くっ……!」
ブライトは攻撃が通らないと分かるとすぐさま後ろに飛んでベールから離れる。
ブライトが離れると、ベールは溶けるように宙に消えた。
「魔力の消耗の激しい魔剣を二本も使うなんて、思ったよりやるんだな……でも攻撃は当たらなきゃ意味ない」
トレイタのブライトは悔しげに顔を歪める。
「魔法攻撃が通じないなら、これならどうですか?」
リュウガとブライトの攻撃の間にトレイタの背後へと回っていたアスカはトレイタに手裏剣を投げた。
トレイタは振り向きざまに小刀で手裏剣を弾くが、その隙にアスカはトレイタの懐に潜り込む。
そして左手を地面につくとトレイタの首へ目掛けて回し蹴りを繰り出した。
「っと」
トレイタは少し眉間にシワを寄せると、両腕を交差させて蹴りを受け止める。
トレイタの防御の堅さに押しきることが出来ないと判断したアスカは体を反転させて後ろへ下がる。
トレイタが構えを解く前にエルザは続けざまに矢を射った。
しかしトレイタは矢が届くまでの短い間に体を反転させるとその勢いのまま小刀で矢を凪ぎ払う。
「タイミングは良かったけど……残念」
横凪ぎに払われた矢は木片と化し、パラパラと音を立てて地面に落ちた。

ブライトは頭の中で今起きた攻防の一連の流れを反芻する。
魔法攻撃も物理攻撃も、接近攻撃も中距離攻撃も、全ての攻撃がかわされてしまった。
それぞれが一番得意とする武器やスタイルで戦っているにも関わらず、である。
(……まずい)
その事実にブライトは手に嫌な汗が流れる。
(やっぱり魔物とは違う……強い……!)
それを感じているのはブライトだけではなく、他の三人も顔をひきつらせていた。
そんな中、トレイタは小刀を手の中で弄びながらブライト達を見る。

「…………勇者って言ってもこんなもんか」

笑みを消し呟かれたその言葉にリュウガは顔を歪める。
しかし言い返すことはできなかった。
トレイタは深くため息をつくと小刀を弄んでいた手を止める。
「……つまんないし、やめる」
パチンと音を立てて小刀の刃を仕舞う。
そして砂避けのコートのフードを被る。
予想外のトレイタの行動にブライト達は困惑の表情を浮かべる。
そうしている間にもトレイタはブライト達に背を向けた。
「なっ……!逃げるな悪魔!!」
リュウガは杖を構えると素早く魔法攻撃をぶつける。
しかしトレイタは虫を払うように軽く手を払ってリュウガの魔法を打ち消した。
「悪いんだけど…………お前ら弱すぎなんだよ」
それまでとは打って変わった冷たい目でトレイタはリュウガを射抜く。
浴びせかけられた殺気にリュウガは心臓を捕まれたような感覚に陥った。

「強くなって、次は僕を楽しませてくれよ……お子様勇者」

そう言ってニヤリと笑うと、トレイタは背から黒い翼を生やし、地を蹴る。
そのままトレイタは森の奥へと飛び去っていった。
「……なんなんだ」
取り残された四人は困惑の表情を浮かべていた。

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あきゅろす。
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