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創作小説
EPISODE1
The God of Desteny doesn't laugh when we ask her for help.
<運命ノ女神ハ笑ワナイ>



真っ赤な光が夕闇の中で輝いている。
空は光を映し、より闇を深めている。
何故かこの赤色は、泣いているようにも見えて、怒っているようにも見えて。
少女は思った。
自分はこの光景を忘れることはないのだろうと。
全てを呑み込んだ赤い煌めきを背に、少女はその場を離れた。



グーシオンと別れてから、5年の月日が流れた。
ルーティスの顔からはあどけなさが消え、変わりに凛とした女性らしさが見え隠れしていた。
体つきも変わり、ルーティスは美しく成長していた。
しかし笑い方は昔の素直なそれのままで、ルーティスの周りではいつでも春のような暖かさがいっぱいに溢れていた。
五年の月日が経ってはいたが、ルーティスは赤髪の旅人と出逢った日のことを鮮明に覚えていた。
ルーティスは外に憧れ、想いを巡らせ、それでも自分が外に出ることはほとんど無いのであろうことを知りながら、日々を過ごした。

ある日のこと。
父の仕事の手伝いを終え、ルーティスは丘に登っていた。
旅人と出逢った丘は、五年経った今も変わらず心地よい風が流れている。
ルーティスは充分に風を満喫すると、いつもより早く丘を離れた。
丘を少し下った所に、村に続く道と森へ続く道の分岐点がある。
いつもなら村への道を歩くところだが、今日は森への道へ進む。
多少鬱蒼としているものの、村で育ったルーティスにとって森は遊び場でもあった。
あまり深くへ入ったことはないが、村の周辺の場所なら、地図など必要ではなかった。
慣れた足取りでルーティスは森の中を歩いていく。
しばらくして、ルーティスの目的地についた。
そこに広がっていたのは、可愛らしい赤い実をつけた木苺畑だった。
そこは以前は手入れをしているお婆さんがいたのだが、一昨年寿命で亡くなってしまい、今や木苺畑は野生と化してしまっている。
だが、生前お婆さんが丹精込めて世話しただけあり、今も木苺畑は元気に美味しい実を付けている。
お婆さんが生きていた頃から、彼女に木苺を食べさせて貰っていたルーティスは、お婆さんの死後も毎年春にこの畑に通っていた。
真っ赤な木苺を摘み、籠に入れながら、時折口に含ませる。
甘酸っぱい木苺は、しつこくなく、とても美味しい。
ルーティスはジャムにしようか砂糖漬けにしようか考えながら、木苺を摘み続けた。

数時間経ち、籠がいっぱいになった頃、ルーティスは曲げていた腰を真っ直ぐに伸ばした。
背骨が突然の体勢変化に追い付けず、悲鳴を上げる。
太陽を見上げ、もうすぐ空が朱くなる時間であるのを悟ると、籠の中を見て満足げに笑みを浮かべた。
そして木苺畑を見渡す。
これだけ採ってもなお、木苺畑には沢山の実が付いていた。
この大きな木苺畑を一人で世話していたお婆さんに、賞賛の思いが広がる。
もう一度木苺畑を見渡してから、ルーティスは元来た道に戻っていった。

日も沈み、森は微かに寒さを帯び始める。
少し長居し過ぎた事を後悔しながら、小走りに森を進む。
そんなルーティスを後押しするように、追い風が背を押していた。
夕飯は何だろうか…そんな取り留めもない事を考えていたその時、ルーティスはある違和感に気がついた。
村に近づくにつれ、肌に感じる空気が暖かくなっているのだ。
最初は走って体が温まってきたのだろうと考えていたが、だんだんと村に近づくにつれ、それは運動により生まれる熱とは質が違うことに気付く。
先ほど寒いと感じた外気は、今では暑ささえ感じさせた。
じんわりとこめかみから汗が噴き出す。

これは、炎の熱だ。

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あきゅろす。
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