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創作小説
黒い少年1
この国では珍しい黒髪を持った少年は、砂避けのフードのついたコートを羽織り、長旅に適したブーツを履いていた。
コートやブーツはところどころ擦りきれ、長いこと歩いてきたのだろう事が分かる。
「こんにちは」
少年はブライト達に気付くと軽く会釈した。
ブライト達がそれぞれぎこちなく会釈を返すと、少年は一行をジッと見つめた。
そして不意に口を開く。
「……どうして僕を睨んでるのさ?」
四人の表情が少し固くなる。
四人の視線は少年のある一点へ向いていた。
一方で少年は少し笑いながら首をかしげている。
しかしすぐに何かに気付いたように手を叩いた。

「あ、そうか!この……返り血のせいか」

そう言って少年は返り血のついたコートの裾を摘まんだ。
ブライト達はそれぞれの武器に手を添えながら少年を見る。
そんなブライト達に少年はより一層笑った。
そして彼はフードに手をかける。
「悪かったな。このコートのせいで気分を悪くさせるなら、すぐに脱ごう」
そう言って少年はフードを外した。
フードの中からは、人のそれとは違った形の耳が出てきた。
「……!」
天を指すように高く尖った耳―――それは悪魔の徴。
四人は瞬時に武器を構えた。
少年は動揺する事なくそれを見つめる。

「改めて初めまして、勇者諸君。僕はトレイタ。悪魔のトレイタ・ラ・ドゥターだ」

よろしくするつもりはないけどね。

そう言ってトレイタと名乗る悪魔は艶やかに笑った。
そんなトレイタの様子に、ブライト達は緊張を誤魔化すように武器を握りしめる。
それに気付いたトレイタは軽く目を細めると口を開いた。
「……思ったよりガキなんだな。こんなチビ達が悪魔を滅ぼす勇者様とはね」
それほど彼等と変わらない年齢に見えるというのに、トレイタはまるでブライト達より歳上であるような口振りでそう言った。
表情は笑みが絶えず、挑発的であった。
「どうしたのさ?武器を出しても、使わなきゃ意味ないんだよ?―――それとも、もうお家に帰りたくなっちゃったのかい、お子様勇者?」
その言葉にリュウガは瞬時に目を吊り上げた。
「悪魔風情が……嘗めるな!!」
リュウガは素早く杖を構えると、柄を地面に突いた。
「〈ファイアボルト〉」
雷を纏った炎がリュウガの杖から真っ直ぐトレイタに向かって発される。
トレイタは炎を振り払うように片手を振る。
まるで風に掻き消されるかのように、トレイタの目の前で炎は消えた。

「はぁぁああ!」

炎の陰から雄叫びを上げながらブライトが飛び出す。
その両手には彼の武器である二振りの魔剣が握られていた。
トレイタは腰にささっている小刀を握ると、こちらもブライトに飛びかかった。
ブライトの剣は片方は小刀に止められ、もう片方はトレイタに腕ごと捕まれて止められる。
ブライトの焦った表情を見て、トレイタは笑みを深めた。

「ブライト!」

エルザは構えていた矢をトレイタに向けて放つ。
トレイタはブライトの剣を解放すると同時に、小刀で矢を弾き返した。
ブライトはその隙にトレイタの腕を振りほどくと、エルザ達の元へと下がる。
ブライトとすれ違うようにアスカの手裏剣がトレイタへ飛んでいった。
「お二人とも勝手に飛び出さないでください。特にブライトさん、貴方はリーダーなんですから」
アスカが片手に暗器を構えながら二人をたしなめた。
しかし彼女のその表情は決して余裕あるものではない。
彼女の放った暗器は全てトレイタによって弾かれていた。
四人は全員初撃を失敗し、悔しそうに顔を歪める。
トレイタはそんな四人を楽しそうに眺め、その口元に弧を描いた。

「―――さあ、君達の実力見せてくれ」



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あきゅろす。
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