創作小説 ソウル・メーカー 昔々、人の知らないあるところに、ソウル・メーカーがおりました。 ソウル・メーカーはいつも大忙し。 彼の仕事は魂を造ること。 とは言え別に一から造るわけではございません。 彼にそんな事はできません。 だって彼は神様ではありませんもの。 彼がするのはリサイクル。 一度使われた魂を綺麗にして、もう一回。 それが彼の役目なのです。 とは言え、リサイクルが楽かと聞かれればそうではありません。 だって世界では毎日沢山の生き物が死に、沢山の生き物が生まれるんですもの。 全く楽じゃありません。 ですが、ソウル・メーカーは決して仕事が嫌いではありません。 むしろ仕事が大好きで仕方ないのです。 何故なら……「おや、君は80年ぶりの友人だ」 ソウル・メーカーはそう言いながら魂を綺麗に洗っておりましたら。 魂に刻まれた思い出や技術−−−想いがソウル・メーカーの手を伝いみるみる流れ出して行きます。 「そうかい、今回はパン屋になったのか」 流れ出る想いがソウル・メーカーに魂の持ち主の人生を伝えます。 ソウル・メーカーは嬉しそうに目尻に皺を寄せて魂に語りかけます。 「子供が三人に孫が八人か。少し貧しかったようだが……狼に食われた前世に比べたらよっぽど素晴らしい人生だったじゃないか。」 慈しむように魂を洗い、純粋な存在に戻したソウル・メーカーは、それを小さな小瓶に積めました。 「次の人生も幸せだと良いが……まあお前さん次第さ、頑張れよ」 そう言ってソウル・メーカーは小瓶を宝石で飾られた箱に入れます。その箱には既に沢山の小瓶が敷き詰められ、箱の上のプレートには『神様行き』と書かれておりました。 「おや、君は20年ぶりの友人だ」 新しい魂を取り出したソウル・メーカーは再び魂に語りかけます。 「お前さんは早死にしたなあ。やっぱり前世で人殺しなんてするからだよ」 苦笑混じりに語りかけるその姿は、まるで友人に語りかけるそれのよう。 ですが彼の言葉に応えるものも、 彼の言葉を覚えていてくれるものさえももおりません。 ですが彼はこの仕事が大好きで仕方ないのです。 全世界の人生を見ることができ、尚且つ全世界の魂と友人となれる。 こんな素晴らしい仕事は滅多にありません。 「おや、50年ぶりの友人だ。お前さんは派手な人生を送ったなあ」 今日もソウル・メーカーは魂に語りかけます。 「ねえおばあちゃん。どうしてソウル・メーカーはそんなに仕事が好きなの?」 一人で喋っているだけなんてつまらないわ。 そう言って幼い少女が祖母に尋ねます。少女に昔話をしていた老婆は、少女の質問に笑って答えました。 「彼は研究者気質のやつだったのさ。知ることが楽しいの。でも同時に寂しがり屋だったのさ。人間関係と探求、どちらかを選ぶことがが出来なかったのでしょうね」 でもソウル・メーカーなら世界で起きた全てを知れる上、友人には事欠きません。彼にとってソウル・メーカーはこれ以上ない仕事だったのだと老婆は言います。 「私、よくわからないわ」 そんな少女に老婆は笑いました。 「それならお前はソウル・メーカーには向いてないのかもねぇ」 少女が母親に連れられ、家へと帰った後、老婆は一人部屋に戻ります。 老婆の部屋には大きな箱に小さな小瓶、沢山の魂が存在しました。 「ねえ、90年ぶりの私の友人さん。私達はやっぱり変わり者なのかしらねえ」 昔々、長い間生きていたソウル・メーカーが亡くなりました。 この世界にソウル・メーカーは絶対必要。 ですが死なぬ人間なんて存在しないのです。 「あら、お父さん。74年ぶりかしらねぇ。今日ね、貴方の事をひ孫に話しましたよ。ふふ、否定されちゃいましたけど」 老婆は楽しそうに話しかけます。 お話し相手はソウル・メーカー−−−彼女の父親。 「まああの子もまだ幼いわ。あの子が世界を知る楽しみを覚えたら、またお話してみようかねぇ」 そう呟いて、この時代のソウル・メーカーは新たな楽しみにクスクス笑ったとさ。 [*前へ] [戻る] |