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創作小説
救世主
長髪の少女が森の中で座り込む。
「もう嫌!こんな生活…」
座り込んだ少女は、そのまま頬を膨らませて文句を言う。
「頑張ろう?ね、エルザ」
ショートヘアの少女がエルザと呼ばれた長髪少女の腕を引きながら元気付ける。
「私は短期戦向きなの〜。トレジャーハンターは長く歩かないの〜…。もう疲れた−。」
少女の腕を振り払うかのようにじたばたと両手を動かすエルザに対し、少し離れた所にいた金髪の青年がため息を吐く。
「エルザ。盗人のお前が捕まって尚、日を拝めるのは王の気遣いのお陰なんだ。そう文句を言うな」
青年の声には苛立ちが垣間見える。
「これじゃあ監獄の方がマシよぉ。ってか私は盗賊!安っぽい盗人なんかと一緒にしないで!もしくは怪盗でも可」
しかし厳しい目線に物ともせず、エルザはふんっと鼻を鳴らして青年を睨む。
「だいたい情けで自由にしたんじゃなくって、占い師の胡散臭い言葉に従っただけじゃない」
その言葉に青年は眉に嫌というほどシワを寄せた。
「占い師ではない。神巫女様だ。そしてあの方がお聞きになられたのは神託だ。」
そんな青年の言葉をエルザは鼻で笑う。
「胡散臭さに変わりはないわよ。あんなの信じるなんて、さっすが王様の忠犬、リュウガ様よね。心の底まで洗脳されてるんだから。」
二人はしばらく睨み合うと、お互い「見たくもない」とでも言うように勢い良く顔を背けた。

この2人は根本的に仲が悪い。
それは性格の不一致などで済む理由ではなかった。
リュウガと呼ばれた青年は、ナリシア国の国軍最高位魔術師であり、王に忠誠を誓う従者。
一方エルザはというと、ナリシアを中心に、世界中で活動している盗賊一味の幹部団員。
当然ながらナリシア国の美術館や博物館でも随分厄介になっているため、国に追われる立場でもある。
それだけでも互いに印象は最悪なのに、極めつけは一ヶ月前、王城で盗みを働いていたエルザをリュウガが捕まえてしまった事だ。

エルザはリュウガを恨んでいるし、リュウガもエルザを恨んでいる。
そんな2人は暇さえあれば口喧嘩を始める。
4人中2人がそれだから残り2人は頭が痛い。
「エルザ。」
名前を呼ぶとエルザが振り向いた。
「それだけ叫べるんだったら大丈夫だろ?頼むから立ってくれ。」
しかしエルザは眉をひそめて首を振る。
「無理。せめて20分の休憩を求めるわ。」
「我が儘言うな」
リュウガが素早くエルザを叱咤する。
エルザは「あんたには言ってない!」と噛みついた。
「「ブライト!」」
2人が名前を呼びながら同時に髪を結った青年の方を振り向いた。
2人の剣幕に圧倒され、ブライトと呼ばれた青年はたじたじとする。。
「…じゃあ間をとって10分だけ、な。」
その言葉に、エルザは嬉しそうにニヤリと笑った。
「悪いわね、リュウガ。リーダーの言うことは絶対よ。」
リュウガは眉間にしわを寄せ、イライラを隠そうともせずにその場に座る。
「甘やかすと調子に乗るんじゃないか?」
「まあまあ、相手は女の子なんだからさ。」
宥めるように言うと、リュウガはため息を吐き、それ以上は何も言おうとしなかった。
「アスカも平気か?」
ショートヘアの少女に話しかけると少女は首を横に振った。
「元々森暮らしなんで、体力有り余ってますから。全然平気ですよ。」
そう言ってアスカが笑う。


「そもそもー、結界が破られたのって魔術が古くなったからじゃないの?それって国の落ち度じゃない。」
10分後、休憩を終え、歩き出すと同時にエルザが言うと、リュウガが即座に否定した。
「高度な魔術は何百年経とうと残るものだ。それに我々国軍は毎月欠かさず結界の中心部で魔力の補給を行ってきた。」
また始まった。
ブライトとアスカは顔を見合わせる。
「じゃあその補給が上手く行き渡ってなかったのね。どっちにしろ結界が破られたのは事実よ。」
リュウガがしかめっ面で押し黙る。
「どう足掻こうともこの口喧嘩、リュウガさんの勝てる道はないですよ。」
アスカが言うと、ますますリュウガは口をきつく結ぶ。
エルザはそれを可笑しそうに眺めた後、演技臭く胸に手を当てた。
「それなのに、こんなにいたいけでか弱い少女を悪魔へ生け贄に差し出すなんて…。嗚呼…なんて残酷なのかしら。」
そう言ってエルザは泣き真似をする。
「よく言うよ。女らしい悲鳴も上げずに魔物に立ち向かっていく人の台詞とは思えないな。」
かろうじてリュウガはそれだけ言ったが、それは負け犬の遠吠えにしか見えなかった。




旅路を行く4人の子供たち。
彼等が王に選ばれし救世主。
彼等は神からの手紙を懐に入れ、笑い合い、手を取り合いながら歩いて往く。

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