[携帯モード] [URL送信]

創作小説
陰と陽妖 7
ぽたり
ぽたりと
滴り落ちる
血液
その入れ物を
治さなければ
血液は
零れ続ける


私が現場に到着してから一週間経った。
私はこの一週間、がむしゃらに仕事をしていた。
ただただ悔しさを振り切ろうとしていた。
途中何度か倒れ、千夏に自己管理不足だと怒られてしまった。
空回りの日々が続き、体力も気力も限界に至っていた私は、今朝『陰討伐完了』という知らせを聞いたときは、本当に安堵した。
もうこれで怪我人は出ない。
しかし、安堵と共にドロリとした気持ちが私を襲う。

討伐されたのは元人間の陰。
陰に堕ちた者を救う方法は知られていない。
この吉原で、華のように咲いていた彼女達は異形の姿となり、殺されてしまった。
今まで、忙しさにかまけ、自分を誤魔化し、考えないようにしていた。
この国にいる限り、いつ自分がああなってしまっても不思議はないのだ。

陰のおかげで命の大切さを思い出してしまった私はそれが恐ろしくなった。
陰となり、誰かに消されるという可能性が怖かった。

桜城に戻ると私は、すぐさま自室に向かった。
そのまま畳に横たわり、丸くなる。
懐から、吉原で拾ったかんざしを出した。
颯希が『倒した』陰のすぐ側に落ちていたかんざし。
陰は死しても元の姿には戻らなかった。
だから陰が誰だったのかは分からない。
このかんざしの持ち主だったのかもしれない。

この国が抱えている闇は、複雑で深くて、私はその中で溺れてしまった。


私はしばらく横たわっている内に、眠ってしまっていたらしい。
起きたときには太陽は傾きかけていた。
私は、寝ている場合ではないと起き上がる。
今回の仕事でまた痩せてしまった。
次の仕事を貰うために、体重を戻さなければ、と食堂に向かう。
食欲は、正直欠片も無かった。


食堂へ行くと、そこには颯希と晃が別々の机にいた。
晃がすぐに私に気付く。
「トウカ!!」
その声に颯希が私の方を振り向く。
しかし目が合った途端に目をそらされてしまった。
やはりまだ怒っているのだろうか。
晃が手招きをしてくるので、晃と向かい合わせに座る。
晃は頭や腕に包帯を巻いていた。
大丈夫かと聞くと、問題ないと元気に答えたが、いつもより若干声が小さい気がした。
注文を取り、品が来るのを待つ。
晃が私の顔を見て何かに気付いたのか吹き出した。
「トウカ!ほっぺ!」
笑いながら私の頬を指差す。
私はびっくりして自分の頬に触ると、何かの痕が付いていた。
恐らく畳の上で寝たときだろう。
恥ずかしくてぐりぐりと擦る。

擦りながら、また部屋で考えていた事が頭の中をぐるぐると巡る。
フラッシュバックのように任務での様々な光景が甦っては消える。
私は頬を擦ることに必死に集中しようとした。

そうしている内に頼んだ品が出てきた。
食べ始めるが、やはり食欲はない。
箸は全く進まない。
晃がそれに気付いて心配そうな顔をする。
「トウカ?」
私は笑って大丈夫、と言うが、上手く笑えてる自信はない。
晃は首を振った。
そして、太陽の様な笑みを浮かべ、そっと私の頭を撫でた。
「任務だったんだな?辛いんだな?でも大丈夫。明るく生きるんだ、トウカ。そしたら大丈夫だ。」
大丈夫、大丈夫と繰り返し言われる。
私なんかよりずっとキツいはずの晃は私よりずっと強くて暖かかった。
傷口に染み渡る薬のように、晃の言葉は私の心を癒やした。

その様子を目の端で見ていた颯希は、食べ途中の皿をそのまま放置して、席を立つ。
そのまま食事所を出て自室へ向かった。
アイツ、多分傷付いていたな…と心の中で呟く。
当たり前だ。
こんな場所に足を突っ込むからだ。
医療班の癖にさっさと逃げないから怖い目に遭うんだ。
見たくもない真実を知る羽目になるんだ。
さっさと逃げないから…
それともアイツを傷付けたのは俺か?
そこまで考えて颯希は舌打ちする。
知るか。
俺が言ったことは間違ってない。

颯希は自分が何をしたいのか、掴めずにいた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!