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創作小説
陰と陽妖 6
私は忘れていた。
命がどれほど重いモノかを。
私自身がどれだけ生きたいと願っているのかを。

私が忘れていたそれを

思い出させてくれたのは、陰


私は、私を背に庇う、怒声の主を見た。

颯希

私はどうしてすぐ彼に気付けなかったのかと思った。
しかし、理由はすぐにわかった。
私は、彼の怒声を今日初めて聞いたんだ。
颯希は、腰に差した刀を抜いた。
そして、千夏が棒に巻いたのと同じ様な札を懐から出す。
「八姫の蛇、刀の刃に宿り陰を喰らえ。」
颯希が呟くと、札が大蛇に変わり、刀身へ吸い込まれていく。
颯希は陰の行る場所へ走り出した。
陰が揺らぎ、衝撃波を飛ばした。
しかし、颯希は全く避けようとはしなかった。
ただ素早く、刀を横一線に振っただけ。
それだけなのに、来るはずだった衝撃波が最初から無かったかのように消えてしまった。
まるで、刀の中の蛇が食べてしまったかのように。
颯希は陰との距離を一気に縮め、斬りかかった。

私達が、足止めも出来なかったそれは、あっさり刀に喰われてしまった。
私はただ、茫然とするしかなかった。

颯希が刀を鞘に戻し、蛇を札に戻してこちらへ帰ってくる。
私は我に返る。
後ろで怪我を負っている千夏達の事を思い出し、慌てて立ち上がろうとしたが、体に白い布が巻き付いていて動けなかった。
もがいて取ろうとするが、これも妖術の一つらしく、外れてはくれなかった。
困ってしまい、颯希の方を見る。
私達の側まで戻ってきた颯希が、軽く布へ触れると、術が解けたのか布は私の体から滑り落ち、一枚の札になった。
私は礼を言おうと口を開いたが、颯希の恐ろしいほどの形相に怯んで、何も言葉を出せなかった。
「何やってんだ、てめぇ」
口調こそさっきより静かだが、怒っているのは充分過ぎる位に伝わってくる。
「てめぇの仕事は何だ?」
小さな頃の颯希からは想像も出来ないような荒い口調。
私は、陰に対するそれとは違った怖さを感じる。
「い…医療…」
かろうじてそれだけ答える。
威圧感に息が詰まりそうだった。
颯希は低く唸った。
「だったら余計な事してんじゃねぇ!てめぇは地震が起きたら抵抗すんのか?津波に挑むのか!?違ぇだろ!医療班は医療だけやってろ!足手まといだ!」
それだけ言うと、きびすを翻し、さっさと歩いていってしまった。
私は、何も出来ずにただへたれ込んでいた。
陰と対峙した時より大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。
「…冬華ちゃん…」
千夏の声が聞こえて我に返る。
すぐに自分の事で精一杯になってしまうのが私の悪い癖だ。
急いで先輩方の応急処置をした。
腕を動かせる先輩が、すでに止血をしていてくれたので、大事に至ることは無さそうだった。
千夏が左手で治療をする私の肩をさすった。
「気にしないで良いからね。あの人はいつもああいう感じなんだから。」
私は首を振っただけで、何も言えなかった。
「そうだよ、冬華ちゃん。大体感じ悪いのよ、あの妖術師。」
何人かの先輩方も、慰めてくれたが、私はただただ首を振っていた。

私が泣いてるのは、怒られたからじゃない。
自分の不甲斐なさに泣いているのだ。
私は何も出来なかった。
ただ助けられただけだった。

私は治療をしながらながら、声も上げずに泣いていた。

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あきゅろす。
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