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創作小説
陰と陽妖 3
壊れたものは元に戻せないとしても、私は足掻き続けると決めた。
きっとそれは無駄じゃない。
私の抵抗の中で、新しい何かが生まれると信じているから。


啓兎が言った「仕事をさせない」という言葉は本気だった。
私は、仕事という仕事を止められてしまった。
現場に出れないのは仕方ないとして、こっそり雑用などに混ざって手伝おうとしたが、すでに啓兎&女性ネットワークにより手配が回っていた。
私が仕事をしているところを発見し次第、止めるように啓兎が女中達に言ったらしく、箒や雑巾を持つことすら阻止され続けた。
どうしようもなく、3日経つ今では諦めて体力作りに精を出していた。
とにかく広いこの桜城を歩き、配置を覚えるついでに体力作り。
しかし極限まで痩せてしまった私の体は、城を一周するだけですぐ参ってしまった。

疲労で階段に座り込んでいると、晃が話しかけてきた。
「トウカ!おはよう!」
太陽のように笑う晃に私も小さく笑い返す。
そんな私に晃は心配して私の顔を覗き込む。
「どうした?元気ないのか?」
首を振って疲れただけだと言うと安心したように晃は笑った。
「晃さんは…」
口を開くと晃は首を振る。
「名前は呼び捨て!呼び捨てが良い!」
私は晃の笑顔に流され頷いてしまう。
他人を呼び捨てなんて颯希以外初めてだ、と思った。
「えっと…晃は…」
うん?と首を傾げる。
私は最初に聞こうと思っていた事を聞いた。
「晃は颯希をどう思ってるの?」
鬼と恐れられている。
そう啓兎が言っていたのに対し、この前の晃の颯希への態度は友人に対するそれと同じだった。
「颯希は俺の仲間!」
晃は何の躊躇もなくきっぱりと言い切った。
「颯希は頼りになる仲間だ!いつも仕事を完璧にこなしてる!だから俺も颯希を支えたい!」
トウカもだろ?と言われて、私は笑って頷いた。
晃の言葉は凄く眩しかった。
私に自信をくれた。
「あ!」
急に立ち上がった晃にびっくりして私は仰け反ってしまう。
「飯!トウカ、飯だ!」そう言うと大きな俵を持つように私の体を担いだ。
一瞬の事で何が起きたのか全くわからなかった。
「あ、あああ晃!?」
パニックになりながら声をかけると、元気な声が帰ってきた。
「トウカ疲れてる!だから運んでやる!」
そう言いながら階段を猛スピードで上がっていく。
私は口も開けずただ目を回していた。

「着いたぞ!…トウカ?」
晃は食事所に着いてやっと降ろしてくれた。
私は呆然と脱力していた。
晃の方はトウカは軽いからすぐ着いた、なんて笑ってる。
早く体重も増やさないと仕事に出れないため、少し頭がクラクラしたが、重めの昼食をとった。
晃と共に注文したものが来るのを待っている。
すると突然、思い付いたかのように晃は質問した。
「トウカは何歳?」
俺は18歳〜と言う。
「17だよ?」
普通に返すと、晃はびっくりした顔をする。
「嘘!?トウカちっさすぎだ!」
私の身長自体は平均ほどあるから、多分体重が足りないと言いたいのだろう。
今までの生活を考えれば、生きているだけで奇跡なのだが、仕事に就き、まともな生活を送り始めてから半年近く経つ今から考えれば、あんな生活で生き残れたのは、颯希への執念に他ならないのだろう。

ご飯が出来上がり、2人で食べ始める。
晃は私を心配して、自分の皿から私の皿に食べ物をどんどん乗せてきた。
ずいぶんと重くなってしまった食事を済ませ、お茶を飲みながら一休みする。
食事所はいつも賑やかで、殺し合いの仕事関係の人達とは思えなかった。
「みんな明るいね。」
そう呟くと、晃は肯く。
「明るくないとやってられないから」
珍しく晃が暗い表情をする。
しかしすぐに明るく歯を見せて笑う。
「でもみんな、心の底から嬉しいんだ!陰を倒して大事な人を守れるから!」
そっか、と笑うと、そうだ!と笑い返してくれた。



颯希は3日前、冬華と会ってから自室を出ていなかった。
啓兎は、颯希の部屋の襖の前に座り込んでいる。
傍らには、粥と漬け物が乗った盆が置いてある。
襖は開かない。
中からついたてを立てられてしまった。
まるでイタズラ小僧を物置にでも閉じ込めるかの様。
しかし、部屋に颯希を閉じ込めているのは他でもない颯希自信。
啓兎は襖を蹴破ることも出来たのだが、それをしなかった。
ただただ、自分で出て来るのを待っている。
しかし、そうし始めてからもう丸二日以上経ってしまった。
こうしている間にも陰は現れる。
颯希も自分もいい加減仕事に戻らなければならない。
もう待てる時間は限界だった。
「颯希…」
そっと呼び掛ける。
中では人の動く気配はない。
「颯希、大丈夫だよ。」
ゆっくりと啓兎は言葉を紡いだ。
「もし冬華を傷付けたのを気にしてるんだったら、大丈夫だ。あの子は強く賢い子の様だからね。」明日の仕事、無理そうなら晃に変わって貰いなよ、と言うとお盆は置いたまま立ち上がろうとした。
その瞬間、中なら微かに物音が聞こえた。
啓兎は腰を屈めた体制のまま耳を澄ます。
「 」
聞こえるか聞こえないかの小さく苦しそうな呟きに、啓兎は寂しそうな顔を浮かべてその場を去った。

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あきゅろす。
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