堕ちて混ざって笑いましょう
不良と漫画とゲーム
次の日は十文字が黒木と戸叶を引き連れてやって来た。十文字は少しは慣れたものの、やはり不良三人に囲まれツナは萎縮してしまう。
そんなツナを見た戸叶はおもむろに自分の鞄を漁ると、何かを取り出した。
「漫画、好きなんだってな」
そう言って差し出されたのは、読み込まれた跡の目立つ古い漫画だった。
「これ面白いぜ。セナが帰ってくるまで、寝てるだけなんて暇だろ?」
差し出された漫画をツナは小さくお辞儀しながら受け取る。それは不良青春ものらしく、見たことがない表紙だったが確かに面白そうだった。
今度は黒木が鞄から何かを取り出す。
「セナ、PS3持ってたよな?これもさ、俺の超オススメだから」
そう言って差し出されたのは、一本のテレビゲームだった。それは格闘ゲームの類いらしく、中華服を来た男二人が蹴りあっているパッケージである。
「アーケードの家庭用バージョンなんだけどよ、かなりハマるぜ」
やろうぜ、という黒木の無邪気な笑みに、ツナは目を瞬かせた後小さく頷いた。
「ぎゃー、コイツ相変わらず卑怯!!っつうか大人げねえ!!」
「初めてプレーする奴に使う手じゃねえだろ!!」
「勝てればいーんだよ、勝てれば!ヒル魔もいつも言ってんだろ」
「ある意味黒木君が一番ヒル魔さんと気が合うのかもね」
「沢田頑張れ!この外道に一泡吹かせろ」
いきなり黒木と対戦したツナはコントローラをガチャガチャと必死に動かしながらも首を振った。
「無理無理無理こんなん絶対勝てない!です!!」
最初は恐る恐るプレーしていたツナも、対戦に熱中していく内に敬語も忘れてゲームに必死になっていく。そんなツナの様子を見て、十文字はどこか満足そうな表情を浮かべた。それに気付いたセナもまた、ツナを振り返って優しい笑みを浮かべる。
「ちょっ、待ってくださいって、わ、ぎゃ、あ、負けた」
テレビ画面には黒木の使うキャラクターが決めポーズを決め、ツナの使うキャラクターが気絶している。その画面を見ていたツナに、黒木はコントローラを置いてニッと笑った。
「お前実は格闘ゲーム結構慣れてるだろ」
初めてにしては手こずった、と黒木は笑う。
「え?あ、はい。アーケードはあまりやりませんけど、テレビゲームなら色々やり込んでます」
比較的ゲーム好きなツナはRPGと格闘ゲームが取り分け好きで、昔―――リボーンがツナの元を訪れるより以前―――はよく学校をエスケープしてから家でゲームに明け暮れていた。ランボが家に来てからは二人で格闘ゲームに興じることも少なくなかった。
わずかに思い出した平和な思い出に、ツナは無意識に目を細める。そんなツナにいち早く気がついた戸叶は、黒木に一発拳骨を食らわせながらコントローラを取った。
「痛ぇ!何すんだよ戸叶!!」
「黒木相手じゃなきゃ良い勝負出来るんだろ?じゃあ次オレと対戦な」
「え、あ、はい!」
「おい、無視すんなよ!」
それから五人はコントローラを回し、対戦をした。トーナメントを組んだり黒木にハンデを付けさせたりと様々な遊び方で遊んでいるうちに外はすっかり暗くなっていた。
「そろそろ帰るか」
十文字のその言葉に、それぞれ帰り支度を始める。黒木はゲーム好きなツナの事を気に入ったようで、また他にいくつか貸してやる、と笑っていた。
「元気になったらゲーセンのアーケードやり行こうぜ!」
そう言って黒木はツナの肩に勢いに任せて腕を回す。一瞬全身を駆け巡った痛みに体を強張らせたツナだったが、すぐに笑みを浮かべて頷き「楽しみにしてます」と応えた。
その様子を見ていた十文字は、少し眉をあげてツナの体を見る。しかしその視線に気付いたツナが困ったように首をかしげたのですぐに何でもないように目をそらして後ろ頭を掻いた。
「じゃあな」
「早く治せよ」
「またな、綱吉」
三人は短くそう言うと、それぞれ部屋を出ていった。三人は三人とも楽しかったと言うように笑っていた。
部屋で見送るツナもまた、今日は楽しかったと笑っていた。
帰り道、三人は喋りながら同じ方向へ帰る。
「なんだよ、十文字が珍しく深刻だったからどんな奴なんだと思ったけど……アイツ全然暗くねーじゃん」
「まあ最初はオレらにかなりビビってたけどな」
「そりゃ不良なんてビビられてなんぼだからな」
昨日のツナの様子を知らない二人がそう言って笑い合う。戸叶の隣で十文字はやれやれ、といった風に首を掻いた。
「最初に単純バカをぶつけて正解だったみたいだな」
小さく呟かれた言葉は黒木に向けたものだったが、本人は届かない。隣で聞こえてた戸叶は笑って肩をすくめた。
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