堕ちて混ざって笑いましょう
帰り路
まもりを家まで送った十文字とムサシは、駅に向かうためそのまま二人で夜道を歩く。
何を話すでもなく、無言のまま並んで歩いていた二人だったが、ふと、ムサシが口を開いた。
「昨日も思ったが……気性の穏やかな奴だな」
誰、と言わなくともすぐにツナのことだと分かった。しかし、話題を振られると思っていなかった十文字は、とっさに何も返せなかった。
ムサシはそんな十文字に構わず言葉を続ける。
「特に尖ってるわけでもない、大人しそうな普通の中学生だ」
頭の良い十文字は、そこまで聞いてムサシが何を言いたいのか分かった。そして今度は十文字が口を開く。
「そう簡単に……家出をするようなタイプには見えなかった、って言いてぇんだな」
ムサシは十文字の言葉に「ああ」と応えた。
「よっぽどの事が……家出までして逃げ出したい何かが、アイツの地元にはあったってことなんだろう」
それは十文字も薄々感じていた。
妙にぎこちない表情、何かに怯えたような瞳。
話していれば時折素の表情を見せるところから、きっと本来のあの少年はもっと表情豊かな人間なのだろう。
それにも関わらず、逃げ出し家出してきたこの地でもなお、あの少年を怯えさせ萎縮させている何か。
十文字は、それがちょっとやそっとの事ではない気がしていた。
「セナは何か知ってるみてぇだったが……それを俺達に話さないってことは、安易に話せないような、それなりのことだったんだろな」
十文字は言いながら、先程ツナに探りを入れようとしたとき、困ったような諭すような―――そしてどこか悲しそうな目で彼を止めたセナを思い出す。
「まぁ憶測だけで話してたって埒が明かんだろうが、こりゃただの家出少年保護じゃねぇだろうことは肝に据えとかねぇとな」
前を見たまま、ムサシは言う。十文字はムサシと同じように前を見たまま、ムサシの言葉を軽く鼻で笑った。
「あの『悪魔』が目を付けたんだ、今さらだろ。ハナっからただの家出少年保護たぁ思っちゃねーよ」
多分姉崎もな。と十文字は最後に付け加える。
ツナの前では常に笑っていたが、なんだかんだまもりは聡い女性だ。多分彼女もまた、大なり小なりツナの怯えた様子なんかに気付いてることだろう。
やがて、二人の帰路の別れ路に差し掛かる。
「ま、くじとは言え一回引き受けたんだ。ほどほどに付き合うぜ」
そう言うと十文字はさっさと己の帰路を歩いていった。
ムサシはそんな十文字の背中に軽く口角を上げると、彼もまた自分の帰路を歩いていった。
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