堕ちて混ざって笑いましょう
人間不信
一瞬部室に沈黙が降りる。誰もが蛭魔の言葉の意味を理解できず、ただツナを見つめる。
ツナもまた、目を丸くしながら自分を指差した。
「…………俺?」
何かの間違いですよね?
そんな心情がありありと出た目で蛭魔を見上げる。しかし蛭魔の目を見た瞬間ツナは蛭魔が本気であることを悟った。
「言っただろうが糞チビガキ。テメェに協力してやるってな」
ツナは蛭魔と二人きりのとき、最後に言われた言葉を思い出す。
ツナに蛭魔はそう言うと、デビルバッツの面々に向き直った。
「コイツはしばらく泥門預かりだ!当たり引いた奴等はコイツの飯や寝床用意しとけ!」
それだけ言い終わると蛭魔は呆然唖然としている面々を置いて一人部室を出ていった。
再び部室に沈黙が戻る。
ツナを含めた誰もが蛭魔の奇行を整理できずにいる。
そんな中、沈黙は唐突に打ち砕かれた。
「綱吉君……」
呼ばれたツナは後ろを振り返る。そこには心配そうな表情のまもりが立っていた。
「やっぱり……お家には帰りたくないの?」
まもりは出会ったときの、ツナの『家』という言葉に対する尋常じゃない怯え方がずっと気になっていた。
あそこまで怯えるなんて、家で虐待か何かを受けているのではないだろうか。
そんなことすら思わせるほど、ツナの怯え方は普通じゃなかった。
まもりはしゃがみこみ、ツナの瞳を覗くように見つめる。
ツナはまもりの言葉と真っ直ぐな瞳に少しだけ逃げるように目をさ迷わせる。しかしすぐに諦めたのか、弱々しく一度だけ頷いた。そのままツナはまもりと目を合わせられず俯いてしまう。
「……そう……」
一瞬悲しさの色を浮かべたまもりは、ツナの言葉に少し俯く。
「分かったわ……」
すぐに上げたその顔には、決意の色が秘められていた。
「綱吉君は私が連れてきたから、責任持ってお世話係させて貰うわ」
しかしまもりの言葉にハッとしたツナは首を振った。
「……俺は、大丈夫です」
そう言ってツナは座っていた席を立つ。
「突然お邪魔してすみませんでした」
そう言って一度お辞儀をすると、部室を出ていこうとする。
しかしそれは大きな影に遮られた。
「出ていって、それからお前はどうするんだ?」
顔を上げると自分の前にムサシが立っていた。
「姉崎の話を要約するとお前は家出中なんだろ?ここ出ていって、それで行く宛があるのか?ここはお前の地元じゃないんだぞ?」
ムサシの言葉は正論だった。事実、ツナに行く宛はない。ツナはムサシに言い返すことはできず、ただ黙って俯いた。
それを見たムサシは一度息を吐くと、ガシガシと乱暴に頭を掻いた。
「アイツの算段はよく分からんが……まあ俺達はお前を悪いようにはしねえから、ここは乗っかっとけ」
ツナは優しすぎるその言葉に、一瞬視線を上げてから再び伏せる。
自分に協力しようと言ってくる蛭魔が悪い人ではないことはなんとなく分かった。
自分を世話すると言うムサシやまもり達が悪い人達じゃないことは共に話す中でよく分かった。
彼らは信用に値する人物だろうとは思っていた。
思っていたが、しかし彼等を信用したいと思うと同時に、ツナは恐れていることがあった。
―――彼等に『心を許した後、裏切られる』ことを。
本来のツナは自分が信用できると判断した相手はどこまでも信じる『大空』であり、人との関係や信頼を恐怖する子供ではなかった。
しかし今のツナは心のどこかが凍り付き、自分の判断すら疑い、全てを拒絶させようとしていた。
疑念は一歩を踏み出させず、恐怖はツナを孤独に閉じ込めていた。
ムサシはそんなツナの心を感じ取ったのだろう。静かに口を開いた。
「別に出会ったばかりの俺達を信用するよう言ってるわけじゃない。ただ『利用』するように言ってるんだ」
ツナは思わず顔を上げた。
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