堕ちて混ざって笑いましょう
ぎこちない
「あ、そう言えば!」
まもりは思い出したように自分の鞄に手を伸ばす。そしておもむろに中からタッパーを取り出した。
「部活の差し入れ作るついでに作ってきたの」
タッパーを開けると、中から甘い香りが広がる。そこに入っていたのは、まもりがよく部員に配るレモンの蜂蜜漬けだった。ただし部員に配る輪切りのそれとは違い、こちらの蜂蜜漬けは食べやすいよう銀杏切りにされている。
「これって疲れてるときだけじゃなくて風邪引いてるときとかにも良いんだって!レモンはそのまま食べて、漬けた蜂蜜はミルクに入れれば蜂蜜ミルクも作れるのよ」
これ食べて元気になってね、と笑って差し出すまもりにツナはお礼を言って受け取る。ツナは中から一枚、レモンを取り出すとおもむろに口に入れた。
蜂蜜の甘さが広がった後、レモンの酸味と柑橘類独特の苦味が程よく後を追う。
それは文句なしに美味しかった。
「おいしい……」
思わずツナは呟き、まもりを見上げる。溢れるように呟かれた言葉に、まもりは「良かった」と言って笑みを深めた。
その笑みは、セナ母が自分に向けてくれたそれととてもよく似ていて、ツナは照れたように少し俯く。
その様子を黙って見ていた十文字が不意に口を開いた。
「なんだ、まともな表情も出来んじゃねぇか」
言われた言葉の意味がよく分からず、ツナは目を瞬かせた。
「なんつーか……昨日から思ってたんだけどよ、お前いつもどっか表情がぎこちないよな」
ツナは目を見開き、唇を一の字に引き結ぶ。それに気付いた十文字は、構わず言葉を続けた。
「まぁ俺はこんなナリだし、分からなかない。けど人畜無害を形にしたセナや、姉崎……先輩にもそんなんだからよ」
まるで何かに怯えてるみてぇだ。
十文字の言葉に、ツナは俯き膝の上で手を強く握りしめる。
二人の様子を見ていたセナは、オロオロとしながらも十文字を止めに入った。
「十文字君、綱吉君にも色々事情があるんだし……」
そう言うセナの頭には、昨夜のツナの身体中の傷が浮かんでいた。
セナのストップに、十文字は一旦黙る。
そしてセナの方へ視線を向けると、セナの目を見た。セナは困ったような諭すような目で十文字を見返す。
少しして、そんなセナに小さくため息を吐いた十文字は、ガシガシと頭を乱暴に掻いた。
「……まぁ、逢ったばっかじゃ仕方ねぇか」
まるで自分自身を納得させるようにそう呟く。そして再びツナの方を振り返ると、少し視線を泳がせた。
「…………お前ゲームとか漫画、好きか?」
突然の話題にツナは顔を上げて十文字を見る。ツナと目があった十文字は、軽くツナから視線をずらすとバツの悪そうな顔をした。
「……どうなんだよ」
返事の催促に我に返ったツナは、慌てて「好きですっ」と早口で答える。
「そうか」
ツナの返事を聞いた十文字はそれだけ言って口を閉じた。
そんな十文字にツナは困惑の表情を浮かべてセナを振り返るが、セナが安心させるように微笑む。
一連の流れを黙って見ていたムサシとまもりは、そんな三人の様子にそれぞれ笑みを浮かべた。
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