堕ちて混ざって笑いましょう
人と化物と暴力による闘い
少女と化物の間に暖かな何かが割り込む。
額と拳に橙の鮮やかな炎を灯した少年―――ツナが、化物牙を右腕のみで受け止めていた。左腕からはツナを支えるための柔の炎が噴き出している。
怯むことなく敵の攻撃を受け止めるその姿は凛としており、先程までの狼狽えた空気はどこにもない。
「ツナ!」
「10代目!」
獄寺と山本は少女の無事に安堵の表情を浮かべる。しかしすぐに目をつり上げると、ツナの元へと駆け寄った。
「さぁ、もう大丈夫なのな〜」
先に着いた山本は素早く少女を抱えると、獄寺の後ろへ少女を運ぶ。
それを見た獄寺は化物から少し離れた―――中距離戦闘に適した位置で足を止め、『SISTEMA C.A.I.』を展開させた。
「俺の後ろから出るんじゃねぇぞ」
少女にそう言い聞かせると、獄寺は『赤炎の矢(フレイム・アロー)』を構える。
それを見た山本は口端を上げ、再び化物の方へと走り出した。
同じく少女の安全を見届けたツナは化物に意識を集中させる。化物は牙を捕まれたままニタリと笑うと、そのままツナに突進した。
「!!」
ツナは突然の力の増加に、柔の炎の炎圧を上昇させることで持ちこたえる。そんなツナに化物はますます嬉しそうに仮面の下の目を細める。
化物は後ろ足で地面を蹴るとツナから距離をとると、大きく口を開けて笑った。
『あははぁ゛……人間のくせにお前なかなか骨があるなぁ゛……』
まさか口をきけると思っていなかった三人は、思わず目を見開く。そんな三人に構わず化物は言葉を続けた。
『……その魂、きっとうめぇんだろなぁ゛…………まとめて俺に喰わせろよ』
そう言うと化物は再びツナに突進する。助走をつけての巨体の突進にツナは眉のシワを深くすると上空へ逃げた。
『ははぁ゛……逃げんなよ゛ぉぉおぉお゛!!』
化物はカパリと口を開ける。見る見る内に赤い光が口に貯まっていった。
「!」
ツナは炎圧を上げてすぐにその場を離れる。
一瞬後に、ツナがいた場所に赤い光線が勢いよく通りすぎた。光線はそのまま直進すると公園の木に衝突する。光線と衝突した場所が抉られ、木は大きな音を立てながら横に倒れた。
『ヂッ……』
口から白い煙をあげながら、化物は悔しそうに舌打ちをする。その行為は姿に反して酷く人間染みているように見えた。
ツナは素早く化物のすぐ横へ飛ぶと、拳を振り上げる。化物は素早くツナの一撃を受け止めるが、ツナはそのまま打撃のラッシュを繰り出した。
『……!!』
化物は素早く重いラッシュに、楽しそうな表情から一転してイライラと歯茎を剥き出す。ツナは一際重い一撃を化物の仮面へと繰り出すと、化物は悲痛な雄叫びを上げた。
『あ゛ぁぁあぁあ゛!!』
苦しそうに叫び声を上げる化物を余所にツナは炎の推進力で化物から離れる。入れ違うように山本が化物の背後へ現れた。
「攻式五の型」
化物がツナに気をとられている隙に、山本は刀を構える。山本の竹刀の竹が割れ、鋼が剥き出しになった。
「五月雨」
山本に気付き振り向いた化物は、片手で顔を押さえたまま即座に防御に走る。しかし山本は刀を持ち帰ることで化物のタイミングをずらすと、そのまま中段に構えた刀を上に振り上げた。
山本の刀は化物の巨体を駆け、左肩を撫でる。直後化物の負傷部から勢いよく血が吹き出され、左腕はガクリと力を無くした。
化物は仮面を押さえていた右腕を離し、振り上げ山本に襲いかかる。
『でめ゛ぇぇえ゛ぇえ!!』
しかし山本は焦ること無くニカッと笑った。
「火炎の矢!!」
獄寺は素早く腕目掛けて嵐の弾を放った。
弾には雷のコーティングがされており、化物の腕を削る。化物の腕は煙を上げながらゴトリと落ちた。
使い物になら無くなった両腕をぶら下げた化物は、雄叫びを上げると怒りに血走った目を山本と獄寺、そしてツナへと向ける。その顔からはボロボロと砕けた仮面が溢れ落ちた。壊れた仮面の間からは赤い血が落ちる。
「!!」
化物の正面に立っていた山本は一瞬何かに気づいたように目を見開いた。しかし唸り声をあげる化物にすぐに集中する。
『ぐそっ!ぐそっ!!ニンゲン共が……!!』
化物はいつの間にか三方向から囲まれていることに気付いた。化物は口汚く罵りながら血走った目を走らせ、逃げ道を探す。
「悪いが……逃がさない!!」
ツナは右腕を化物へ向けると左腕を右腕の直線上に構え、柔の炎を吹き出した。そして小さく「オペレーションX」と呟く。
『了解シマシタ、ボス』
ツナのヘッドホンから機械の声が聞こえてきた。
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