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堕ちて混ざって笑いましょう
人気者


ツナと山本は、リボーンによって撃たれた特殊弾のお陰で無事助かった。

ツナは地面に投げ出された状態から慌てて起き上がると、山本を振り返った。

「山本!大丈夫か?」

そんなツナに山本は頷き、起き上がる。そして少し訝しげな表情を浮かべた。

「ツナお前……死にたくなかったんじゃないのか?」

ツナは山本の質問にツナは少しまばたきをすると、大きく頷いた。

「そりゃ死にたくないよ」

きっぱりと言いのけるツナに山本は「じゃあなんで……」と重ねて問う。そんな山本にツナはあっけらかんとした表情で応えた。

「死にたくないけど……友達が危ないのを見捨てられるほど非情じゃないよ」

ツナはそこで言葉を区切ると、山本に軽く笑いかける。

「……とは言え、俺が一番びっくりしてんだけどね」

そう言うツナに山本は間の抜けたような表情を浮かべた。そしてだんだんと我に返るにつれて笑い出す。

「はっ、あははは……ツナ、お前スゲーな!」

そう言って笑う山本に、ツナも笑いかえした。



「こんにちはー」

その日の放課後、ツナはいつも通り侑子の店の扉を開ける。

「ツナ来た!」
「ツナ来た〜!」

今日はマルとモロがツナを出迎えた。ツナはじゃれてくる二人の頭を優しく撫でながら、侑子のいると思われる和室へと向かう。


結局、山本の自殺騒動は山本のジョークとして片付けられた。屋上から落ちても無事だったことから、クラスメート達はワイヤーか何かを使っていたと判断したらしい。

ついでにツナも共犯扱いされ、山本共々先生にこっぴどく叱られた。

山本には後から謝られたが、ツナ自身はあまり気にしていなかった。


あの自殺騒動の後、山本の腕に絡み付いていた鎖は一度も姿を表してはいない。


「……侑子さん」

和室でお酒をのみ、くつろいでいる侑子を見つけたツナは、静かに呼びかけた。侑子は顔だけツナに向けると艶やかに微笑む。

「侑子さん……お聞きしたいことがあります」

ツナがそう言うと、侑子は手に持っていたグラスを盆においた。


ツナは侑子に今朝の自殺騒動のあらましを全て話した。侑子は口を挟むことなく、最後までそれを聞いていた。

「あの鎖は……何だったんですか?」

全てを話し終えた後、ツナはそう尋ねた。しかしそんなツナに侑子は尋ね返す。

「なんだと思う?」

ツナは少しだ待った後小さく口を開いた。

「……野球部のみんなの……『本心』」

苦々しげに答えられたツナの回答に侑子の唇は弧を描く。

「それはあっている……とも言えるし、間違っているとも言えるわ」

ツナは顔をあげて侑子を見た。侑子は微笑みを浮かべたままツナの胸を指差す。

「ツナは昨日山本君の事、『羨ましい』って言ったわよね?」

突然の侑子の問いにツナは戸惑いながらも頷く。確かにツナは昨日侑子にそう言っていた。

「それはね、貴方だけが思っている訳じゃないのよ」

ツナは侑子の言いたいことがわからず、首をかしげる。そんなツナに侑子は笑みを深めた。

「明るくて野球が上手くて人望もあって、おまけにかっこいい、そんな山本君を羨ましく思うのはきっとツナ以外にも沢山いるでしょう。そして一度は思うのよ。『自分もああだったら良かったのに……』って」

身に覚えのあるその想いにツナは目を見開いた。そんなツナを尻目に侑子は言葉を続ける。

「羨望は何も良い感情のみを生むわけじゃないわ。相手の持っているものを欲しがるあまりに無意識の内に悪意に転じてしまうこともある。『どうして自分じゃないのだろう』『あそこに立っているのが自分だったら良かったのに』っていった具合にね」

そこまで聞いたツナは、顔をくしゃりと歪めた。やっと侑子の言いたいことを理解する。


「あの鎖はね、『羨望』から生まれる無意識の悪意。つまり『嫉妬』よ」


侑子はグラスに手を伸ばすと、それにウイスキーを注いだ。

「本来ならそんな本人が自覚していないほどに小さい悪意が、力を持つことはないわ。でも山本君は『人気者』だから、沢山の人から『羨望』を受けていた」

ツナは侑子の言葉を繋げるように言葉を紡ぐ。

「沢山の人が『羨望』して……同時に『嫉妬』した。想いは集まれば大きくなる。そして……ヒトの想いは時に何よりも強い力になる」

侑子はウイスキーを傾けながらツナの言葉を聞いていた。そしてツナが言葉を切ると、引き継ぐように口を開く。

「特に野球部のみんなは山本君の野球をいつもそばで見てたから、羨望も嫉妬も強かったんでしょうね。だから彼らの想いが鎖に一番強く反映された」

ツナは複雑そうに口をつぐんだ。

鎖は最初、腕に絡み付いていたのだ。きっと山本のスランプも、腕の骨折も、あの鎖が引き寄せたものなのだろう。
山本が挫折すれば、怪我で休めば、いなくなれば、自分がレギュラーに選ばれるかも……なんて、そんなことを誰かが心のどこかで考えてしまったのかもしれない。

悪意のない嫉妬が、山本を苦しめ、果てには殺そうとまでした。

誰も望んでいないのに起きてしまった一連の出来事にツナはやるせなさそうに俯いていた。


「たとえ心の陰ではどう思っているのであれ……野球部のみんなはきっと山本君の事を心から大切な仲間だと思っているんでしょう」


黙り込んだツナに侑子はゆったりと語りかける。

「今回彼らは山本君が『本当に死んでしまう』という恐怖を味わって、『生きていた』という安堵を味わった」

侑子の言葉にツナは顔をあげる。侑子は優しげな表情で微笑んでいた。

「ヒトは一度起きた事を忘れることはないわ。喪う恐怖を知った彼らは、きっと二度と大事な人に対して『消えてほしい』だなんて思わないでしょう」

そう言って酒を煽る侑子にツナは少し目を見開くと、弱々しく笑みを浮かべた。

侑子は障子を引いて月を見上げる。

細い三日月は、夜の闇の中で揺らめくように浮かんでいた。

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あきゅろす。
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