堕ちて混ざって笑いましょう
屋上
クラスメートの言葉にクラスは騒然とした。
「山本ってうちのクラスの?」
「おいおい、あいつに限ってあり得ねーだろ」
「言って良い冗談と悪い冗談があるわ」
普段の明るく前向きな山本を知っているため、みんな一様に彼の言葉を否定する。しかし彼は深刻な顔を崩さず、言葉を続けた。
「あいつ昨日一人居残って練習してて、無茶して腕を骨折しちまったらしいんだ!!」
その言葉に野球部の面子が驚きの声を上げる。ツナも大きく目を見開いた。
『お〜し今日は居残って全力で野球を楽しむぞ!!』
ツナの中に山本との昨日の会話が蘇る。
(まさか……俺のせい……!!?)
自分の余計な発言が山本を更に追い詰めてしまったという事実にツナの頭は真っ白になった。
山本の骨折という事実に、クラスメート達もいよいよ冗談ではないことに気付き始める。
「とにかく屋上に行こうぜ!」
その言葉を皮切りにみんな大慌てで屋上に向かっていった。
そんな中、未だ後悔に思考が停止しているツナだけが教室に取り残される。
それに気付いた京子は、足を止めるとツナを振り返った。
「ツナ君行こっ!」
ツナはその言葉に我に返る。そしてすぐさま京子に頷くと、大慌てで教室を飛び出した。
(過去を振り返っててもしょうがない!今はとにかく山本を止めないと!!)
ツナが屋上に着くと、すでにそこにはクラスメート達が屋上のある一角を遠巻きに囲っていた。
その奥にはフェンスの外側に立つ山本の姿がある。山本の腕にはギプスが巻かれ、首から吊られていた。
「オイオイ冗談キツいぜ山本ー!」
「そりゃやりすぎだって」
クラスの男子達がひきつった笑みを浮かべながら山本に声をかける。
すると山本はクラスメート達を振り返ると、自嘲気味に笑った。
「へへっ、わりーけどそーでもねーんだ。野球の神さんに見捨てられたら俺にはなーんも残ってないんでね」
口調こそ軽いものだったが、その言葉と表情には絶望が滲み出ている。それはクラスメート達は山本が本気であることを悟らせるには充分だった。
「たけし君やめて!」
「お願い、考え直して!」
そう泣きそうな顔で懇願する女子達にも山本は首を振って笑うだけで、フェンスの内側に戻ろうとはしない。
そんな山本に、ツナは屋上の入口のそばで表情を辛そうに歪めていた。
(俺のせいで……)
ツナは少しの間、何か逡巡するように瞳を揺らす。しかしすぐに意を決したように眉をつり上げると、山本のいる方へと歩き出した。
「ちょっとごめん!」
クラスメート達に謝罪を入れながらかき分けるようにして前へ進む。
「えっ?」
「きゃっ!」
「いてっ!?」
誰かにぶつかる度に隣や背後から驚きの声が聞こえたが、そんな彼らに構っている暇はなかった。
「山本っ!!」
目の前が開けるのと同時に、ツナはありったけの大声で山本を呼んだ。
その声に山本を含むクラス中の全員がツナを振り返る。
「ツナ……」
山本が小さくツナの名を呟いた。
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